前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
俺と御堂先輩の挙式が中断して早十日経つ。
縫う怪我を負ってしまった俺は数日間入院を強いられ、そこで療養を取る羽目になった。
怪我自体は大したことじゃない。
けれど医者は強く入院を勧めてきた。精神面を心配してのことだろう。
御堂夫妻の願いもあり、俺はここ数日を病院で過ごしている。
本音を言えば学校に行きたい。
補助奨学生なのだから欠席・欠課はすこぶる響く。
ただでさえ一週間、博紀さんに軟禁されていたんだ。
これ以上欠席を増やしたくはない。
「正午に警察が来たっす。事情聴取をされました」
「そうか。……もう数回は警察が来ると思うけどよ。有りの儘に話せばいいと思うぜ」
濱が死んだことは警察から口達され、改めて知った。
やっぱりあいつは死んでしまったのか。
車が炎上した上に、川にどぼんだもんな。
焼死体として出てきたのか、はたまた土左衛門として出てきたのかは分からないけれど、気分はよろしくない。
どんな理由であれ人が死んだんだ。
後味が悪いに決まっている。
ブレーキのことは伏せておいた。
淳蔵さんの差し金なのだと薄々勘付いてはいるけれど、素知らぬ振りをしておこうと思う。
これを知ったら必ず御堂先輩の耳に飛び込むだろうから。
……彼女の傷付く姿はもう見たくない。
ただでさえ今、傷心を抱えているのに。
だから俺は御堂先輩にまたしてもうそをつく。
もう泣き顔を見たくないから。
今回の事件は多くの人が傷付いた。
俺は勿論、淳蔵さんに利用された御堂先輩。
何も知らず婚約を喜んだ御堂夫妻。
共食いをされそうになった鈴理先輩に、大雅先輩。
うちの両親も借金諸々のことで傷付いた。
母さんなんて俺が濱に誘拐された、また入院したのだと聞かされて喪心しかけたそうだ。
今でこそ濱に怨みつらみを述べているけれど、聞かされた当初はあの人は最後の最期までしてはいけないことをした。
事故死したことすら憎い。
借金を押し付けるだけ押し付け、金づるになると更なる悪事を重ね、責任逃れのように死んでしまうなんて。
ああいう男は務所生活を送るべきだったのだ。
世間様に裁かれるべきだったのだと泣きじゃくっていたと父さんから聞いている。
「大切な息子をっ、借金の肩代わりに送り出す親の気持ちを知らずに死ぬなんて」
死ぬ前に一度、張り手をかましてやりたかった。
号泣する母さんの吐露を聞かされた時は胸が鷲掴みになりそうだった。
―――父さんも、母さんも、挙式並びに借金の真相を知らない。
俺が御堂夫妻に頼み込んで口止めしてもらったんだ。
まさか淳蔵さんの手で豊福家と縁を切らなければならない事態に陥っていたなんて、二人は知る由もないだろう。
この先も、知らなくていい。
もっと傷付く上に、仲違いになることが目に見えているから。
そうそう豊福家の借金は帳消しとなっている。
うちの両親が雇った弁護士を媒体に、警察に筆跡鑑定を依頼。
すると連帯保証人の署名は偽装であることが発覚した。
……親が弁護士を雇うとは思わなかったよ。
それだけ俺を大切にしてくれているんだな、と思うと切なくなった。
だからこそ俺は両親にもうそをつくのだ。
彼らがこれ以上、傷付かぬように。