前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「そうだ、豊福。俺達、ただの幼馴染になったぜ」
と、大雅先輩が話題を切り替えてきた。
幼馴染を強調する俺様は、「仮だけど」婚約を破棄してもらったんだ、と得意げに笑う。
「あの日がタイムリミットだったんだけどよ。玲が、一週間先延ばしにしてくれたおかげで親を説き伏せることができた。
と、言っても、鈴理の親父さんが承諾しただけで、俺の親父はイマイチ。英也さんが俺の親父を説得してくれるよう努めてくれるみてぇだけど」
これで一応、三ヶ月以内に婚約を破棄させる約束は守られたわけだ。俺は受け男にならずに済んだ。
ホクホク顔の俺様は情けない受け男になるくらいなら、俺はカマ道に進むなんぞ仰ってくれた、が、受け男である俺には非常に耳の痛い言葉である。
じろり、相手を見据えると、
「悔しかったら女を攻めてみやがれバーカ!」
おちょくられた。
く、く、く、屈辱!
「仮ってどういうことっすか?」
素っ気無く話を逸らす。
ひひっ、悪戯げに笑った後、大雅先輩はまんまの意味だと肩を竦めた。
企業のデータ解析により、間接的に共食いが止められた。
自分達の功績が認められ、我が儘が通ったのだと話してくれる。
ただし英也さんは鈴理先輩と大雅先輩の婚約を諦めたわけではなく、少しでも状況が悪化するようなら今度こそ婚約式を挙げると断言したという。
だから仮なんだって。
完全に認められたわけじゃないんだな、二人とも。
これから地道に努力を重ね親を説得し、自分の生きる道を勝ち取っていかなければいけないのだろう。
大変だな、令息令嬢は。
「鈴理は恋愛関係なしに、この道を貫いて行くんだと思う。あいつはそういう女だ。自分で決めた道に誇りを持って生きる。指図される生き方は望まない。
いつかはそういう道を進んでいくと思っていたが、契機はお前になっちまったな」
柔和に頬を崩す大雅先輩に、
「貴方はそれをずっと待っていたんですね」
鈴理先輩がその道を歩き始めるまで、率先して許婚でいようとした。
何も言わない彼だけど、本当は早期から許婚を解消できることだってできたんだ。
けれど大雅先輩はそれをせず、表向きでは嫌だ解消したいと口にしつつ、自分が許婚で居続けることで鈴理先輩を守ろうとした。
水面下で並々ならぬ決意をしていたんだろうな。
本当に彼女が危うい立ち位置にいるのなら、それこそ彼女を生涯の人としていたのだろう。
不器用で愛情深い人だと思う。
今なら彼の気持ちが痛いほど分かる。なんでだろうな。
彼のぶきっちょな格好良さにちょっと嫉視する俺がいるよ。