前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―
「婚約破棄、ご両親はなんて?」
「認めてくれたのは父さまだが、心意は分からん。まともに喋っていないからな」
「君らしくないね」
「……あたしはまだ父さまや母さまを許せずにいるんだ。顔を見るとどうしても、口が閉じてしまう。
勝手に決められそうになった人生が、いつまでも尾を引いているんだ。家ではシカトが多いよ。
おかげで、もっと相手を認めさせようと実力をつけたくなった」
「僕なんてジジイと絶縁状態だよ。お互いに苦労するね」
「あんたはこれから、どうするんだ? 空と再契約したはいいが、このまま引く気もないのだろう?」
「ジジイのことが許せない」だから実力をつけたいと思った。いつか、必ずあいつを超える。玲の明言に、そうか、とあたしは頷く。
静寂が訪れた。
喧騒している店内をBGMに、あたしはシェイクを、玲はナゲットを咀嚼して過ぎる一刻を肌で感じる。
ふと玲が口を開く。
「恋はしてみるもんだね」
良し悪し関係なく視界が開ける。
彼女の意見にまったくだと頷き、視線をかち合わせ、笑声を漏らした。恋はしてみるものだ。
それを通して、あたしは自分の得たい何かを得た気がするから。
その契機が豊福空という男だったというのならば、これはなにかのめぐり合わせなのかもしれん。
玲もきっとあいつを通して得たい何かを得るんじゃないだろうか? 今は手にしてなくても、いつか。
「玲。学校で攻め倒すと忠告しておくぞ。もう我慢する必要もなくなったしな」
「少しは遠慮したらどうだい? 一応、婚約しているんだぞ、僕達」
「あんたが気持ちをすべて掻っ攫ったらな」
「嫌な女。美味しいところだけいっつも取っていくんだよな。君って。あの夜も、今も」
その時は気付かずとも、未来の自分が顧みて何か大切なことに気付いてくれたらな、と思う。
あたしだけでなく、玲や大雅、空も。
同じ恋をしている幼馴染を見やれば、あいつはあどけない顔でウィンクしてきた。
「鈴理、勝負をしよう。とびっきり素敵な勝負を」