多々なる世界の〇〇屋【企画】
「ま、こんなもんだろう」
男は不敵に笑むや、背後の朱色の光―――パトカーのランプが己を照らし出す照明であるかのように、
ふうわり、両手を広げた。
* * *
およそ三日間に渡る取り調べを終え、少年は警察署から無事外に帰還できた。
(だけど、なあ)
まだ世間的に犯罪者の汚名が抜けぬ少年が、ふたたび孤児院に受け入れられるとは思えない。
それに、引き取り手の群集は一斉検挙され、いわば少年には帰る場所がないのである。
しばらくうつむいていた少年は、ふと、からんころんという下駄の音を耳にした。
「あ」
少年はぽつりと口にした。
あの進路屋の男が、どこから買ってきたのか綿飴をもぐもぐと喰いながら、またその怪しげな瞳で少年をとらえていた。
「進路屋さん……」
「お疲れさんだなあ、ひょろなが小僧」
男が言った。
少年は暫く男を見つめ、そして真摯に頭を下げた。
「どうも、ありがとうございました」
「おいおい、俺は金をもらって仕事をしてる身だぜ。
そういうときにゃ礼を言うんじゃねえよ。
だいたい、おまえさんが礼を言う時ってのはなあ……」
びしり。
綿飴の棒の先を少年に向け、
「俺がおまえさんに、
しばらくうちの店で住み込みでバイトしろ、
って言った時だい」
少年はもう一度頭を下げて、「村田、瞬(しゅん)です」と名乗るのだった。
「おうよ、俺は幸路(ゆきじ)ってんで、
よろしくな瞬小僧」
幸路はそう言って、もう片方の手に持った綿飴を瞬に手渡した。
―EDN―

