空人1〜奇跡〜
「何て顔してるのよ」
慌てて振り返った先にいたのは、俺がよく知る女子だった。
大澤柊(オオサワヒイラギ)。クラスメートであり、俺の幼なじみでもある。
「って。何だ、柊かよ。びっくりした」
「何だって何!? 文句あるの?」
「嫌、別にないけど。文句っていうか、驚かせんなよ――…」
「……文句あるんじゃん! あ、でもさっきの驚いた顔は面白かったかも」
「なっ……そんな驚いてないし」
実はかなり驚いたけど、そう言ってしまうのは何となく悔しいから心の中にしまい込む。
「ふうん。で、秋人は何してるの?」
「……ふうん、って。お前、絶対信じてないだろ!? 俺はただボーッとしてただけ。それ位良いだろ?」
「またぁ? 昨日も教室で寝てたじゃない」
「……何で知ってるんだよ。で、柊こそ何でこんなとこにいんの?」
「私? ちょっと用事があったの。別に何でもいいでしょ」
柊は少し怒っているのか、頬を膨らませる。
柊が見せる、分かりやすい仕草の一つだ。
「秋人、いい加減帰れば? もう教室には誰もいないよ?」
「柊がいるけど」
「あのね。私はたった今入ってきたばっかりなの、たった今。
だいたいね、今何時だと思ってるのよ。もう学校終わってから一時間以上経ってるんだからね」
……。それ位分かってる。
「知ってるって。俺もたった今帰ろうとしてた所だし」
その矢先の出来事だから、余計に驚かされたのかもしれない。
とにかく。……何でもいいから、帰るか。
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