消して消されて
朝の情報番組。

唯は思わず口に運んでいる箸を止めた。

「どうしたの?唯」

美咲の言葉は唯に届いていなかった。

瞬きせずに呆然とテレビを見ていた。

信じられない文字が唯の目に飛び込んできたからだ。





「尾崎博脱走か」





司会者の男が興奮冷めやらぬ様子で事態を説明した。

「昨日20時頃、死刑判決を言い渡された尾崎博被告が拘置所から突如姿を消しました。警察は脱走と見て捜査していますがいまだに行方は分かっていません」

司会者がスタジオにいる専門家に話を振った。

「この事態をどうみますか」

話を振られた専門家は首をひねった。

「脱走にしては不可解な点があるんですよね。何よりもまず脱走した形跡がないことです。厳重な警備の中で簡単に抜け出せるとは思えません。もしかしたら内部に協力者がいたのではないでしょうか」

唯の鼓動が一気に加速した。

専門家がまだ何か喋っているが唯は箸を食卓に叩きつけると部屋へと戻った。

後ろから美咲の心配する声が聞こえるが無視した。

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