消して消されて
部屋へ入ってごみ箱を漁る。

丸めたくしゃくしゃの紙を取り出した。

「まさか・・・」

唯はおそるおそるそれを広げた。

「ひっ・・・!!」

思わず紙を放り投げてしまった。

昨日紙を捨てたときには「尾崎博」という名前しか書いていなかった。

それなのに今広げられた紙には名前の上に尾崎本人の顔が浮かび上がっているのである。

その顔は極悪人の表情をしている。

「嘘でしょ・・・」

唯は口元を手で覆った。

「この紙・・・本物?」

もしかして尾崎はこの紙に吸い込まれたのではないだろうか。

非現実的だが、そうでもしないと紙に顔が浮かび上がっている物の説明がつかない。

唯は心臓に手を当てて深呼吸した。

「落ち着いて、落ち着いて」

こんなに気持ちを取り乱すのは男が暴力を振るっているとき以外ない。



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