猫かぶりな男とクールな女
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「どうです…?」
「おいしい!
ワインもお任せにして正解だったね」
ホッとした様子で胸に手を当ててはにかむ美奈子。
オーダーは美奈子に全て任せて、ワインのセレクトだけ、料理に合うものを店員に選んで貰った。
あえてコースではなく、パスタを2種類とサラダをそれぞれ単品で頼んだ。
足りないかと思いきや、見た目以上のボリュームに目を丸くする蒼介を見て美奈子はクスクスと笑う。
「…なんか、新鮮です。」
「………?」
「職場だといつもニコニコしてるから、今日は違う一面が見れてる気がして」
美奈子はうっとりしながら蒼介の顔を眺める。
そんな様子に思わずフッと息を漏らす蒼介。
「…正直、僕も今日、春日部さんの顔見てホッとしたよ」
「えっ………」
「プライベートな事だけど、最近ちょっと友人に振り回されてて…ね。会社の人といるほうが逆に落ち着くよ」
ここ数日を思い返し頭を抱える。
「そう…ですか」
ささやかな期待を裏切られた美奈子はガックリと肩を落とした。
蒼介はそんな美奈子を見て、慌てて笑顔を作り直す。
「あ………いや、誰でもってワケじゃなくて…
春日部さん、気配り上手だしいつも穏やかだから安心するっていうか…」
言ったあとに、少し踏み込みすぎたと後悔し、口元に手を当てる蒼介。
そんなしぐさも照れ隠しに見えてしまったのか…
ちらりと視線を送ると、美奈子は嬉しそうに目を細めている。