狂想曲
いくら人が多い上に暗がりだからって、そんな、馬鹿な。



「……お化け、か」


でも、本当にそうなのかもしれない。

私はむせ返るような熱気の中で息を吐く。


息を吐いたら余計に疲れが押し寄せてきた。



「律この前もそうだったけど、どうしたのー?」

「んー」

「あれじゃん? 律からアルコールを抜いたらダメってことー」


なぜだか嬉しそうに言った百花は、



「律のこと紹介してほしいって人いるんだけどー。で、これから飲みに行こうって誘われてるんだけどー」


そういうことかと思った。

百花は「行こうよー」と私の腕を引く。


百花の甘ったるい声が重低音と絡んでひどく耳障りで。



「帰るわ」

「はぁ?!」

「ごめん。でも、気分じゃないから」

「ちょっと、律!」


叫んだ百花を残して、私は、さっさと出入り口へと歩く。



外は静かだった。

ちらほらと店の前で談笑している若者はいても、フロアのあのうるささを思えば、気にもならない。


私は月を見上げた。


夢だったと言われれば、今ではそんなようにも思えてしまう。

けれど、馬鹿馬鹿しいなと、自分に言って苦笑いする。



夜は、不思議なことばかり起こる。

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