雪解けの頃に
1章 帰国

1】久々の我が家

 三月二日。
 
 吹き抜けて行く風はまだ冷たいが、そこかしこではさまざまな植物が芽吹き、春の訪れを待っている。



 閑静な住宅が立ち並ぶ落ち着いた区域。
 
 そんな住宅街のとある一戸建ての前にタクシーが停まった。
 
 運転手は車の後方に回り、旅行用の大きなスーツケースやボストンバッグをトランクから下ろしている。  
 
 後ろのドアが開き、一人の女性が降りてきた。
 
 濃紺のスーツに淡い花柄のブラウスを合わせ、足元を彩るパンプスはブラウスに合わせてか春らしい色のライトイエロー。
 
 器用に数本のピンだけでまとめ上げた髪が、きちんとした印象と共に女性らしさをかもし出している。
 

 しかし……。
 

 両手を思い切り上げて、豪快に背伸びをする様子はせっかくのおしとやかな女性像を見事ごとにぶち壊しだ―――本人の自覚がないのは幸か不幸か……。


「うう~ん!!やっと帰ってきたぁ」
 

 高木 理花、10日ほど前の2月23日に誕生日を迎えたばかりの26才。

 およそ八ヶ月に及ぶ長期海外出張から帰ってきたところである。


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