雪解けの頃に
 久々に見る自宅を懐かしげに見上げているうちに、運転手が彼女の荷物を玄関先まで運んでいた。

「あ、そこに置いてください!」
 
 理花は慌てて小走りで駆け寄った。


「運んでくださってありがとうございました」
 
 礼を言うと、運転手はにこりと笑って一礼し、そしてタクシーへと戻っていった。




「さぁて、我が家に変わりはないかな?」 
 
 よいしょ、と声を出して理花は荷物を抱えあげた。



 どっしりと重量感のある木製の扉をグワァッと引いて大きく開ける。


「たっだいまぁっ!」
  
 お年頃の女性にしては少し―――いや、かなり勢いのある帰宅の挨拶である。
 
 

 すると廊下の奥の戸が開いて、見るからにおしとやかな小柄な女性が現れた。

「おかえり。……もう少し静かに挨拶できないの?」
 
 我が娘ながらあきれるわぁ、と少々困り顔である。



「長旅からの帰宅早々、グチらないでくれる?お母さん」
 
 パンプスを脱ぎながら、顔だけ母親のほうに向けて理花は言う。





< 4 / 43 >

この作品をシェア

pagetop