天体観測
「あら、お久しぶり」
マスターは入ってきた客に向かって、言った。その客は、返事をせず、僕らから一番遠い、入り口近くのカウンター席に座った。マスターもそちらに近付き、水を入れて小さな声で談笑をはじめた。声は聞き取れない。
僕はそっちの方には目を向けず、雨宮の方を見ているので顔はわからないけれど香水の匂いからして大人の女性であることは間違いない。
雨宮は少し頬を紅潮させて、その女性の方を見ている。その目は今にも溶けて無くなってしまいそうだ。
「どんな人?」
僕は小声で聞いた。
「すごく……きれい」
雨宮にそこまで言わす女性を見てみたい衝動に駆られたけれど、それは一瞬で忘却の彼方へ飛んでいった。
「マスターの恋人かな?」
「恋人っていうか……むしろ奥さんって感じするよ」
「でもさっき『お久しぶり』って言ってた」
「なんて言うか……説明……しにくいけど、別居中?みたいな雰囲気。恋人よりも……夫婦が似合うというか……」
「別居中?あり得そうだけど、そもそも俺にはマスターが既婚者とは思えないな」
「そう言われると……不倫相手……かな」
雨宮は食い入るように、向こうを見ている。その表情は、僕が知っている雨宮よりも、雨宮らしかった。
「雨宮ってこういう話題好きなのな」
意外な質問だったのか「えっ?」と言って、雨宮はさっき以上に頬を紅潮させて、俯いた。
「生き生きしてるよ」
「意地悪……言わんといてよ」
「初めて、雨宮の本音を聞いた気がするよ」
雨宮はゆっくり顔を上げて、僕にニッと笑ってみせた。
マスターは入ってきた客に向かって、言った。その客は、返事をせず、僕らから一番遠い、入り口近くのカウンター席に座った。マスターもそちらに近付き、水を入れて小さな声で談笑をはじめた。声は聞き取れない。
僕はそっちの方には目を向けず、雨宮の方を見ているので顔はわからないけれど香水の匂いからして大人の女性であることは間違いない。
雨宮は少し頬を紅潮させて、その女性の方を見ている。その目は今にも溶けて無くなってしまいそうだ。
「どんな人?」
僕は小声で聞いた。
「すごく……きれい」
雨宮にそこまで言わす女性を見てみたい衝動に駆られたけれど、それは一瞬で忘却の彼方へ飛んでいった。
「マスターの恋人かな?」
「恋人っていうか……むしろ奥さんって感じするよ」
「でもさっき『お久しぶり』って言ってた」
「なんて言うか……説明……しにくいけど、別居中?みたいな雰囲気。恋人よりも……夫婦が似合うというか……」
「別居中?あり得そうだけど、そもそも俺にはマスターが既婚者とは思えないな」
「そう言われると……不倫相手……かな」
雨宮は食い入るように、向こうを見ている。その表情は、僕が知っている雨宮よりも、雨宮らしかった。
「雨宮ってこういう話題好きなのな」
意外な質問だったのか「えっ?」と言って、雨宮はさっき以上に頬を紅潮させて、俯いた。
「生き生きしてるよ」
「意地悪……言わんといてよ」
「初めて、雨宮の本音を聞いた気がするよ」
雨宮はゆっくり顔を上げて、僕にニッと笑ってみせた。