天体観測
僕と雨宮は何組の何とかが大学生と付き合っているとか、清楚に見えるあの子が実は援助交際をしているとか、そんな他愛のない話を続けていた。やはり雨宮はこの手の話ではよく話してくれた。僕はほぼ一方的に吐き出される言葉にただ相づちを打っていた。

「足立くんも広芝さんと付き合っててんな?」

僕は返答に困ったけれど、もう学年の大半にはバレていることだと思って「まあね」と答えた。

「よく付き合ってたね。あの人、あんま評判よくないから」

「それを言ったら相手だって同じだよ」

「足立くんの評判も悪いってこと?」

「少なくとも広芝よりもね」

「そんなことないよ。足立くんはクールで知的やから人気あるよ」

「俺としてはそっちの方が困るけど」

「またまた」

雨宮は口を抑えて笑った。人というのは話題一つで、ここまで変われるものなのかと僕は心の中で思い、心の中で笑った。

「それよりもあの人誰かな……?」

話はまた、背後の女性へと移っていった。

「じゃあ、少し黙って盗み聞きしてみよう」

僕らは黙ってマスターと謎の女性との会話を聞いた。

女性の声を聞いたとき、背筋がゾッとした。そんなことがあるはずがない、世の中そんなに狭くはない、と自分の心に言い聞かす。

「どうしたん……足立くん」

僕は気付けば小刻みに震えていた。雨宮はそんな僕の様子に気付いたのだ。

「大丈夫」

僕は後ろを見ようとする。けれど体が動かない。何度揺すっても、僕の体はそれを拒んだ。

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