天体観測
僕は対処に困ってしまって何も言えずにいた。ニュアンスはさておき、謝るくらいなら、最初から離婚なんてしなければよかったんだ。

「本当にごめんね」

「何で謝るのさ」

僕にはとぼけるぐらいしか思い浮かばなかった。でも、これが何の意味もなさないことくらいはわかった。

母さん煙草を取り出したけれど、吸うそぶりは見せなかった。僕が「吸えば?」と言っても、やはり吸わなかった。

「最初にね、司がHIROに出入りしてるって聞いたとき、心臓が止まるかと思ったわ。バレたらどうしようって考えるだけで夜も眠れない日もあったのよ。それでもね、後には引けなかったわ。司の言う通り、私は母親である前に、一人の女なのよ」

前半の方は、声が小さくて聞き取りづらかったけれど、後半の方は毅然とした声に変わっていて、はっきりと聞き取ることが出来た。

「やっぱり元の鞘って、マスターのことだったんだね」

母さんは軽く頷いて、「高校のとき、三年間付き合ってたのよ」

「何で別れたの?」

「私は東京の大学に進学して、彼は大阪の大学に。そうなっちゃうと年頃の二人だもの。長くは続かないわ」

「それで父さんと結婚したんだ」

母さんは「どことなく雰囲気が似てると思わない?」と言うと、煙草を吸いはじめた。
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