天体観測
煙は渦を巻きながら天井近くまで昇り、何事もなかったかのように消えていった。窓の外では、雨が降りだしている。

僕はマスターと父さんの似ている所を、真面目に考えてみたけれど全くと言っていいほど思い付かなかった。

「何が、どう似てるのかもわからないよ」

「あら、あの二人ほど似てる人種も珍しいと思うけど?」

さっきまでとはうってかわって、母さんは笑っている。あの調子はきっと、息子に対する謝罪なんかじゃなくて、勝ちの決まった戦をするような、ある種の勝利宣言か何かに違いない。僕が何も言えないことぐらい、母さんはわかっていたんだ。

「どこがだよ」と、僕はぶっきらぼうに言った。怒ってはいなかったけれど、何か釈然としなかった。自分よりも自分を知られているような気がする。

「そうねえ……一人じゃ決して生きていけないところかな」

「マスターはどうか知らないけど、父さんは一人でも生きていけるよ。むしろ、一人でしか生きていけないかもしれない」

「無関心もお節介も似たようなものよ。一人になりたくないだけ」

「お節介ならわかるけど、無関心はわからない」

「磁石のS極とN極なのよ。あの二人きっと話が合うわよ」

僕はあの二人がHIROのカウンター席で語らっているのを想像した。それは何故か簡単で、二人がどんな話をするか、それを考えただけで自然と笑みがこぼれた。
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