天体観測
「たしかに、あの二人なら真剣な顔でくだらない話をしそうだね」

「でしょ?二人とも理系でSF好きだから、SF映画とかの話で盛り上がるわよ」

「マスターもSF好きなの?知らなかったな」

「あの人、よく一期一会って言わないかしら?」

「一期一会?」

僕は、初めてあのうまいコーヒーを飲んだ日、そして初めて現場検証をした雨の日を思い出した。あのときのマスターの目は母さんを見ていたのだろうか。

「『出会いは本来一期一会だから大切にしろ』って言ってたよ」

「あの人の好きな言い回しよ。でもそのくせ、時空間旅行は将来的に可能だとか力説するの」

「たしかに父さんが好きそうな話だね」

「でしょ?」

「うん」

「あのね、司」

急に母さんは笑い顔を止め真剣な顔になった。僕は一瞬その表情に気圧されたけれど、なんとか立て直し、「何?」と聞いた。

「このまま押し切ってやろうかと思ったけどやっぱり無理ね。ごめんなさいね。黙ってて。怒ったでしょ?」

母さんは泣き出しそうな顔をして、言った。こういう場面で泣ける人間はきっと世渡りがうまいんだろうなと思った。

「そんな顔されて、怒ったとか許さないとか言えるほど、僕には勇気がないよ」

「じゃあ、何であんなに震えてたの?」

はっきりと「動揺したから」とは言えなかった。言葉を濁そうにも、他に言葉が思い浮かばなかった。僕は「風邪気味なんだよ」と、小学生みたいな嘘をついた。
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