天体観測
「あまり無茶しちゃだめよ。どうせ忘れてるでしょうけど、司はまだ学生なんだから」

「大丈夫。警察になんて世話にならないから」

「そういうことじゃないんだけど、まあいいわ」

今度は母さんが立ち上がった。けれど母さんは僕と違って冷蔵庫の方には行かず玄関の方に向かった。

「どこ行くの?まさかHIRO?」

「バカねえ。会社に行って整理しなきゃいけない書類があるの。だから今日は夕ご飯いらないわ。あの人も当直みたいだから」

僕は「わかった」と頷いてから、もう一つ、聞いてみた。

「母さん、今日わざとHIROに来たんだろ?わざわざ普段はふらない香水なんてふって来たのはどうして?」

母さんはブーツを履くのに苦戦しながら、言った。

「どうかしらね」

「もしかして、僕を試したとか?」

「試す?どうしてよ」

「あそこで僕が母さんに気付かなかったら、マスターとの関係は明かされなかった。違う?」

母さんは何も言わないまま、ただ女性らしからぬ笑い声をあげて出ていった。

一人になった僕は、今後マスターとどう接しようか考えた。けれど結論はすでに見えていて、何だかそれが妙におかしくて、僕は一人で笑った。

変わりようがないさ。僕らの関係に、何らか変化があったわけじゃない。これは、あくまで母さんとマスターの問題なんだ。僕には関係ない。

そう自分に言い聞かせたとき、チャイムが鳴った。
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