天体観測
恵美は、声を殺したままで十分ぐらい泣きづつけた。やがて泣き止み、備え付けてあったティッシュで鼻をかんだ。

「ごめん、急に泣いたりして」と心底申し訳なさそうに、恵美は言った。

「前から思ってたんやけど、司ってこういう時、変に優しいよね」

「何言ってんだよ」

「泣いてるときに、ああいう対処してくれると助かる」

「それじゃ、今度からはもっと積極的にいくよ」

「アホ」

恵美はにっと笑い、リクライニングを倒した。

「少し、寝さして。このまま帰ると司がおとんに怒られてまう」

「怒られるのは別に構わないけど、恵美がそうしたいならそうしたらいいさ」

「変なことしないでよ」

「俺はまだ、星になりたくないんでね。恵美が寝てる間は、HIROにいるから起きたら携帯鳴らすか、中に入ってこいよ」

恵美は「わかった」とだけ言って、目を閉じた。

僕はそのまま少しだけ、恵美の寝顔を見てからHIROに向かった。

HIROでは、テーブル席が満席だったので、僕は仕方なくカウンター席に座り、レモンスカッシュとトーストを注文した。

僕はどうやって時間を潰すか考えて『ティファニーで朝食を』を家に置いてきたことを後悔した。

僕は、迷った挙げ句、カウンターの中にいる白髪の男に声をかけることにした。HIROには過去何度も来たことがあったけれど、カウンター席に座るのは初めてだったからだ。こんな機会はもうないかもしれない。

「あの、喫茶店のカウンターの中にいる人は店長って言うんですか、それともマスターって言うんですか」

男は少し驚いた様子で、しばらく僕の顔を覗き込んだ後、少し下品な声で笑った。

「個人的にはマスターかな。君は少年か青年、どちらがいいかな」

「個人的には青年です」

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