天体観測
「ところで少年、何の用や」

「少し時間を持て余してるんですよ。店長」

マスターは腹を抱えて笑いだした。後ろを見なくても、周りの客がこちらを見ているのがわかる。

「君も僕と同じくらい天の邪鬼やな。気に入った。トーストおごったるわ」

「あまり施しは好きじゃないんですけど、おごってもらうことにします」

「現金な奴やな」

「大阪の人って大抵そうでしょ」

「大阪だけやないよ。世界的に見てもそうや」

「それが現実ですか」

「虚しいことやけどな」

僕らは二人そろって天井を見上げた。僕の上にはセンスのいいアンティークのランプがかけてある。

「ところで、用はなんなんや。僕、こう見えても暇やないんよ」

「新しく入ってくる人もいないし、今いる人はみなさんオーダーとっているようですけど」

マスターは周りの客を見渡し、水のおかわりを持っていったが、断られこちらに戻ってきた。

「こういうことや。暇そうに見えてもそうやないの。まあ、気持ち的な部分が大きいけどな」

僕は少し黙って、やっぱり話すことにした。僕は客でマスターは店員なのだ。

「ここのプラネタリウムはすばらしいですね」

マスターは少しむっとした顔をしたが、観念したのかふーっと一つため息をついた。

「星、好きなんか?」

「今日、生まれて初めてプラネタリウムに入りました」

「なんや、僕が少年くらいの歳のときは、ここくらいしか遊ぶとこなくて、毎日プラネタリウムを見に来たもんやけどな」

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