天体観測
手のなかにある便利な機械から、反応はない。僕の耳には相手をコールする音だけしか聞こえない。僕の左の頬はまだ痛みと熱がある。ビンタの痛みというのはこれほど尾を引くものだったろうか。
僕は電話を切って、「まだ怒ってんのかよ」と窓の外に向かって言った。でも、ただ虚しいだけで、世界と僕とが完全に分離したような気がする。
僕は、もう一度、最後の望みを賭けて、電話をかけた。これで出なければ、隆弘の弔いどころの話じゃない。
恵美は五回コール目で、明らかに怒った様子で電話に出た。
「何か用?」
「ごめん。悪かった」
「あらあら、私は何も怒っておりませんことよ?勘違いせんといて」
「どうしたらいいんだよ」
少し黙って、恵美は電話越しにわかるくらい恥ずかしそうに、言った
「今度同じ状況になったらちゃんとして。それを約束してくれたらいいよ。許してあげる」
返事が出来ない僕に、恵美は何を言うでなく、ただ待っていた。この沈黙は僕にとって痛みを伴うものだった。
「それは無理だな。」
「は?何で?同じことの繰り返しやん。司は私に恥をかかせる気?」
「そんなことないけど、俺にはそんな勇気がないんだ。女の子と話すことすら、恵美としか出来ないんだ。そんな俺に、これ以上のこと、出来ると思うか?」
「嘘つき。知ってんねんから、三年なるまで一組の広芝さんと付き合ってたの。だいたいどこまでやったかも」
「隠してたわけじゃないんだ。結果的に隠してたようになっただけのことさ」
「広芝さんは結構べらべらと言いふらしてたけどね」
それを聞いた僕は、頭の中で広芝涼子に悪態をついた。秘密にしようと言ったのは僕じゃない。広芝自身じゃないか。
「まあいいや。こんなこで怒っても、無駄に白髪としわが増えるだけや」
「そうだ。それがいい」
「ところで、司くん。君、明日は暇かい?」
僕には悪い予感しかしなかった。でも、僕は変なところが優しくて、恵美はただでさえ強引なのだ。その上、状況は明らかに不利に働いている。
僕は恵美に従うことにした。それしか手段がないわけじゃないけれど、恵美を怒らせることは極力したくない。
「暇だよ」
「よし。明日村岡くんと紗織と、箕面の滝に行くから車、出してね」
僕は電話を切って、「まだ怒ってんのかよ」と窓の外に向かって言った。でも、ただ虚しいだけで、世界と僕とが完全に分離したような気がする。
僕は、もう一度、最後の望みを賭けて、電話をかけた。これで出なければ、隆弘の弔いどころの話じゃない。
恵美は五回コール目で、明らかに怒った様子で電話に出た。
「何か用?」
「ごめん。悪かった」
「あらあら、私は何も怒っておりませんことよ?勘違いせんといて」
「どうしたらいいんだよ」
少し黙って、恵美は電話越しにわかるくらい恥ずかしそうに、言った
「今度同じ状況になったらちゃんとして。それを約束してくれたらいいよ。許してあげる」
返事が出来ない僕に、恵美は何を言うでなく、ただ待っていた。この沈黙は僕にとって痛みを伴うものだった。
「それは無理だな。」
「は?何で?同じことの繰り返しやん。司は私に恥をかかせる気?」
「そんなことないけど、俺にはそんな勇気がないんだ。女の子と話すことすら、恵美としか出来ないんだ。そんな俺に、これ以上のこと、出来ると思うか?」
「嘘つき。知ってんねんから、三年なるまで一組の広芝さんと付き合ってたの。だいたいどこまでやったかも」
「隠してたわけじゃないんだ。結果的に隠してたようになっただけのことさ」
「広芝さんは結構べらべらと言いふらしてたけどね」
それを聞いた僕は、頭の中で広芝涼子に悪態をついた。秘密にしようと言ったのは僕じゃない。広芝自身じゃないか。
「まあいいや。こんなこで怒っても、無駄に白髪としわが増えるだけや」
「そうだ。それがいい」
「ところで、司くん。君、明日は暇かい?」
僕には悪い予感しかしなかった。でも、僕は変なところが優しくて、恵美はただでさえ強引なのだ。その上、状況は明らかに不利に働いている。
僕は恵美に従うことにした。それしか手段がないわけじゃないけれど、恵美を怒らせることは極力したくない。
「暇だよ」
「よし。明日村岡くんと紗織と、箕面の滝に行くから車、出してね」