天体観測
残念というべきか、当然というべきか、湯槽につかることは出来なかった。冷たいシャワーだけで、昨日の汚れを落とすなんて無理に決まっている。僕は昨日の内に風呂に入らなかったことを後悔した。

ダイニングに行くと、既に母さんは仕事に行っていて、テーブルの上にはメモが残されていた。

『今日は彼氏とデートがあるので遅くなります。夕食はいりません。P.S あなたは受験生の自覚がありますか?』

この文章を読んだ僕は笑わずにはいられなかった。

母さん遅いよ。僕はもう受験生のつとめなんて果たせそうにないんだ。 

時計を見てみるとまだ八時前で、恵美たちが来るにはまだ時間がある。

何をしようか考えた挙げ句、卵の期限が近いことを思い出したので、朝食をとることにした。

空きっ腹に染み渡るハムエッグは、我ながらいい出来で、絶妙な味だった。今思えば、僕は昨日の昼から何も食べていなかった。

「人間の三大欲を忘れるくらい色々あったんだな」

この頃、僕は独り言が多い気がする。

朝食を食べ、テレビを付けると二日前、斡旋収賄で捕まった府議が自殺したニュースが速報で報道されていた。

僕は舌打ちをして、自殺した府議に対して悪態をついた。

今にも消えそうな生命がある。助けようとしている生命がある。見守るしかない出来ない生命がある。何も知らない生命がある。この中で、失っていい生命なんてない。誰も死にたいなんて思っていない。全人類を見たってそうだ。死ぬべき人なんていないはずだ。

なのに自ら死を選ぶことは死者を冒涜し、生者を裏切ることだ。そして……

死に逝く者へ絶望を与えることなんだ。
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