天体観測
「じゃあ、どうしたらいい?僕らはあることを成し遂げなければいけないんだ」

マスターは、少し考え込んでいる。僕がわかるように、納得出来るように、言葉を選んでくれている。

「子供は子供なりに、背伸びをせず、無茶せんと物事を冷静に見るよう心がけろ。決意を形にするんならそれをしたらいい。大人になんて無理やりならなくていい。大人なんてしんどいだけやで。だからゆっくり、休みながら一歩ずつ前進しろ」

恵美は決断した。だから僕は決意をしなくちゃいけない。そう思っていた。でも、それは少し違っているのかもしれない。僕も決断するべきなのかもしれない。

子供でいることを。   
「まあ、それでダメなら次ぎ考えたらいいさ」

「そうするよ」と言った僕は、急に目の前にあるギムレットが不味そうに見えて、黙ってギムレットをマスターに返した。

「これでいいんだね」

「ああ。今度ジンライムやギムレットを飲むときはバーにしろ」

僕は「うん」と言い、二千円をカウンターに置いて踵を返して外に出た。後ろからはマスターの「またのおこしを」という声が聞こえた。

「子供は子供らしく、背伸びをせずか……」

車に戻った僕は、運転席のリクライニングを倒して、天井にむかって呟いた。BGMは『星に願いを』。

「隆弘、俺……それで頑張ってみるから」

そう呟いた僕は、少しだけ大人に近づいている気がした。

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