天体観測
「別に焦ってるつもりはないんだ。ただ……僕は心のどこかで問題を軽んじていたかもしれない。もっと、早く解決すると思ってた」

二、三度瞬きをしただけで、マスターはそれ以上何も言わなかった。

恵美の目が覚めたのはそれから三十分後で、マスターは煙草を三本吸い、僕はアイスコーヒーを二杯飲んでいた。

「寝てた?」

「周りを見てみたらいいさ」

恵美は首だけ動かし口元を緩めて小さく笑った。

「二人ともぐっすり眠ってるね」

恵美はテーブル席を離れて僕の横に座った。

「恵美もぐっすりだったよ」

「寝言とか言ってなかった?」

「うん」

「よかった。あ、マスター、コーヒーください。少し甘めで」

「あいよ」

マスターは流動的な動きでコーヒーを入れ、恵美の前に置いた。

「今日もダメやったね」

「だね」

「もう見つからんのかな」

「そう焦るなよ」

僕がそう言うと、マスターはニヤニヤしてこっちを見た。僕はそれを手で振り払った。

「マスター、さっきは何処行ってたん?おかげでおいしくないコーヒーを飲まなあかんかってんから」

「そうだよ。もういい加減に教えてくれてもいい」

マスターは頭を掻き毟り、四本目となる煙草を取り出し、言った。

「まあ、いいか。二人で行ってき」

僕が「何処へ」と言うと、マスターは笑って、天井を指さして、言った。

「プラネタリウムや」
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