天体観測
プラネタリウムにはやはりと言うか当然、人がいなかった。

「涼しいね」

「うん」

僕と恵美は一層しかない椅子の一番出口に近いところに座っている。あれから一週間と経っていないのにここからの風景はどこか懐かしい。

「気持ちいいね。やっぱりプラネタリウムっていいとこやな」

「うん」

「あれ?今日は『たしかに悪くない』って言わんのね」

「うるさいよ」

恵美は声を殺して笑った。

「それにしてもマスターは気が利いてるね」

「少し気障じゃないか?こういうのって」

本来なら今日、プラネタリウムは休みのはずだった。けれど、マスターが僕らの労いのために奏に取り合ってくれたらしい。

「そうかな?私たちのことをよく理解してくれてるんちゃうの?」

恵美は僕に微笑みかけてきたけれど、僕は恵美をうまく見れない。恵美は日を増す毎に、きれいになっている。

「まあ、そうかもしれない。あの人はかなり子供っぽい大人だから」

恵美が何かを言おうと口を開いたと同時に、証明が落とされ、重低音がショーの開始を告げた。
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