天体観測
僕らはテーブル席に集まって、話し合うことにした。けれど、誰も口を開かない。

僕は何でこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。あれだけ道路や、暑さと格闘したというのに、なんて体たらくなんだ。

最初に沈黙を破ったのは村岡だった。

「ブレーキ痕がないって、どういうこと?」

その質問があまりに愚直で、僕は憤りをおぼえた。

「そのままの意味だ」

「だからどういう意味やねん」

僕は目線でみんなに援護を求めて、マスターがその信号をキャッチしてくれた。

「君が車に乗ってて、急に人が出てきたらどうする?」

「急ブレーキします」と、村岡は即答した。

「そうやな。そのとき、道路とタイヤの間にすごい熱エネルギーが発生して、道路に残るのがブレーキ痕。今回はそれがないってこと」

「つまり、犯人はブレーキする気がなくて、もともと轢くつもりやったってこと?」

「そうかもしれんな」

「洒落にならへん」

そこで会話は終了。全員がことの重大さを理解した。だが次の沈黙は案外すぐに終わった。

「でも……思うんやけど……ブレーキをする気がなかったとは言い切れないんじゃ……」

僕らは雨宮の方を見る。雨宮は弱々しいが毅然とした態度で座っていた。
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