天体観測
「だから……その……軽いものやったらブレーキをしても残らんのじゃないかな……例えば自転車とか」

「紗織……すごい」

「自転車か、それならたしかに目撃者がいないっていうのも納得できる」

「何でや?」

「轢く瞬間は、誰も見てないかもしれないけど、轢いた後を見た人は絶対いるんだ。でも、誰も自転車になんて注目しないだろ?逃げるには都合がよかった。それに激しく当たって壊れてても、壊れているのに走っている自転車なんてたくさんある。タイヤが曲がってない限り目立たないし、ほとんど外装がないぶん証拠となる破片とかは残らない」

一筋の光が僕らを照らしはじめたかもしれない。この一歩は、僕らにとって人類が火星に降り立つくらいの価値があった。

ふと僕がマスターを見ると、マスターは頭を抱え、考え込んでいた。

僕が気になって、「どうしたのさ」と聞くと、マスターは言った。

「でも、警察だってそこまでバカじゃないんちゃうか?少なくとも、僕の知ってる警官はそれぐらいのこと気付くで」

「つまり何が言いたいの?」

「何か、裏、あるかもな」と言ったマスターの顔は、どこか暗い気がした。

「まさか……そんなはずないよ」

僕は頭をふって時計を見た。時刻は七時二十分だった。
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