天体観測
気持ちとは裏腹に、僕は清々しい気分で目を覚ました。外は昨日の晩と同じようにどんより曇っているけれど、雨が降る気配はない。

僕は母さんの作った朝食を食べて、昨日出来なかった勉強を昼まで行い、HIROに向かうことにした。

夏真っ盛りにしては、今日は比較的涼しく、道中にあるプールにはあまり人がいなかった。

HIROにいたのは、テーブル席にいる雨宮だけで、マスターすらいなかった。僕は雨宮を一瞥して、カウンター席に座ろうと思ったが、結局テーブル席に座った。

雨宮は僕に気付くと、少し身を強ばらせて、「こんにちは」と言った。

「こんにちは」と僕も返す。
「外……曇ってるね」

「だね」

僕らの会話の引き出しには天気のことしかなかった。

それでも僕は頑張って、次の話題を考えたけれど、僕個人の引き出しにもたいしたものはなかった。

「マスターは?」

「豆が少なくなってきたから……買い出し行ってくるって言ってたよ」

「飲み過ぎたね。コーヒー」

「そう……やね」

「まあ、うまいから仕方ないよな」

「うん」

雨宮と話していると、自分が饒舌のような気がしてきて恥ずかしくなってくる。本来こういう役目は村岡と恵美の役目なんだ。

僕がそんなことを考えていると雨宮は口を開いた。

「ねえ、足立くん……事件のことやねんけど……」

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