一人睨めっこ
 人が落ちていくのは、ドラマのようにゆっくりでは無かった。

 二階から、地面へ。

 一つ瞬く間に

 鈍い音と共に

 彼女は落ちた。


 ――――何が起こった?
 理解出来ない。
 彼女は、どこへ行った?
 どうなった?

 俺の脳は、一時的に機能しなくなった。


『……れ…………か?』

 林田は、両手を見ながら呟いた。
 つい先程まで掴んでいた、彼女の腕。
 今はきっと、地面に打ち付けられ無惨な状態になっているだろう。

『麗香?』

 林田は、手をグーにして、また開いた。
 確かにそこにあった、彼女の感覚を思い出すように。

『麗香……麗香ぁ!!』

 林田が窓へ走りだした。

「林田!!」

 咄嗟に俺も林田を追って、窓へ走る。
 そして、彼女の後を追って飛び降りてしまいそうな勢いの林田を制止した。

『麗香あぁぁぁ!!!』

 無惨な彼女の姿を見た林田の叫びが、虚しく空に響く。
 俺も林田を制止しながら、窓の下を見た。
 人の死体なんて、もちろん初めて見た。

 高村麗香とは初対面だった為、悲しみなどはそれ程無い。

 ただ――傍に居たのに彼女を止められなかった悔しさ、
 人が死んだと言う事を受け止められない戸惑い、
 一人睨めっこが及ぼす惨劇、恐怖に

 俺の心は支配された。
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