一人睨めっこ

七節 意識

「風呂上がったぞ葛西――」

 俺がそう言いながら部屋のドアを開けると、葛西がソファーで寝ていた。
 漫画を読みながら寝てしまったのだろう。

「全く――風邪引くぞ」

 俺は葛西に近づいてそう言ったが、葛西はすやすやと寝たままだ。


『…………ッ』

「ん?」

 か細い声が聞こえたので、俺は葛西を見た。

「か…さい?」

 俺は驚いた。
 寝ている葛西の白い頬に、一筋の涙が伝っている。

「葛西……!?」

 俺は葛西にさらに近づき、顔を覗いた。

 葛西は何故か、とても寂しそうな顔をしていた。
 例えるなら――飼い主に捨てられた子猫のような。

 よく分からないけど、そんな葛西を見ていると俺まで寂しくなってくる。


「…………」


 俺は無意識の内に、葛西の濡れた頬にそっとキスをした。
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