銀盤少年
分岐点
ヒロの演技が終わり、急いで狼谷を医務室に連れていった。
幸い骨や靭帯には影響がなく、ただの捻挫だった。
だけど無理をし過ぎたことと、同じ個所をつい最近怪我したばかりだから、完治までには時間がかかるという診立てだった。
あんだけ動きまわって捻挫で済むならラッキーな方か。仁が止めていなかったらと思うとゾッとする。
医務室にいたおっちゃんが席を立つと、ヒロも「試合を観てくるから」と言って俺の手を取って無理やり医務室から追い出された。
おいおい、あいつを一人にしていいのかよ。
と口を開きかけたとき、俺の言葉は発せられることはなく、ヒュッと喉から空気が抜ける音が出た。
「仁……」
医務室から出た途端、偶然出会った人物。
いや、偶然なんかじゃない。意思を持ってここに来たのは、馬鹿な俺でも察している。
仁は軽く頷くと、黙って医務室へ入って行った。