独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「――白兎…起きるのですッ!早く目を覚ますのですッ!」

「ローズ…」

「どうして、どうして…ッ此処にいるのに、どうして目を開けないのですかッ!?白兎、どうし…なんで、何で貴方までッ!!ローズは…一人ぼっちじゃ…ッそんな、こんなのっ…うわあぁああッ嫌あぁああああぁあっ!!!!」

「…こんなの、あんまりだよな…ッ」


病院に到着すると、オジサンが俺達を迎えてノエルの病室に通してくれた。

オートロックの付いた完全個室の部屋には、動かす事の出来ないベッドがポツンと置かれている。

四方をベッドに固定された少年が、沢山の危機に繋がれて死んだように眠っていた。

その姿を見るや否や、ローズが悲鳴に近い声を上げて駆け寄っていったのだ。


「…ッ感染症を併発して…植物状態に。生きているだけでも奇跡らしい…。クソ、何でこんな…ッ」

「白兎はずっとローズを守ってくれたのですッ!泥まみれの靴底で何度も蹴られて、ローズの事をいつも庇ってくれました!この目もッ…ローズがお腹が空いたって言ったから、キャンディと“交換”してしまったのですッ!血がいっぱい出て、ローズは、知ってたのに…ッお願ッ…もう、もういいのですよッ!ローズは、ローズはあ゛ぁあ゛あっ!!」

「どうすりゃいいんだよッ!!俺は、俺は一体どうすればッ!!畜生ックソッ!!ストークス家が何だッ、四大名家が何だよッ!!俺は無力だ、無能だッ…何故、どうしてっ…うわあぁあっっ!!!」

「ローズは甘えていましたッ!いつの間にか守られるのが“当り前”になっていたのですっ!謝りますッ今度は一杯ローズが殴られますッ!!だから、だから…目を、開けてくださいッ…!」


ローズの幼い瞳に映された世界は、余りに醜く薄汚れた現実だった。

気まぐれでもいい、誰かがほんの一握りの愛情を傾けてやればよかったのだ。

踏みつけられた焼き立てのパンは、幼い子供達の心だった。

踏みにじられ砂に塗れ、震える夜を指折り数えても、二人は引き離されてしまった。

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