ギミック・ラブ ~年下小悪魔の上手な飼い方~《完》
2 倦怠期か否かの、見分け方
     ☆☆☆☆☆



「ひょっとしてあれさぁ、
休み前夜に女二人で帰る
なんて寂しいヤツ、って
イヤミだったんじゃないの〜?」


純和風居酒屋の個室で、
向かい合って座るあたしと奈々。


一時間ほど飲んでほろ酔いに
なってきたところで奈々が
言ったのは、そんなこと。


言ってるのは多分、
柚木クンのことだ。


あたしはまた一口グイッと
お酒をあおってから、


「えー、そうかな。
別に深い意味ないんじゃないの」


あたしには柚木クンが人に
イヤミを言うなんて、
あまりピンとこない。


_だけど奈々は『ううんっ!』
とやたら大きく首を横に
振って食い下がる。


「絶対そうだって!

だぁって、あたしら同期
なのに、“仲いいですね”
なんて今さらじゃんっ。

しかもわざわざ呼び止めたし!」


「だから、何となくでしょ」


「何となくで人呼び止める
ようなヤツじゃないでしょー、
アイツはぁっ」


「……知らないわよ。

てゆーか奈々、うるさい」


奈々は酔ってくるといつも
こうだ。

まぁあたしも同じ系統だから
文句は言えないけど、今日は
ちょっとペースが早いな。


_あたしは奈々におつまみを
勧めながら言った。


「もしホントにイヤミなら
奈々のせいでしょ。

上司のくせに部下を置いて
帰るからじゃん」


すると奈々はロコツに顔を
しかめて、


「はぁ? いいじゃんそんなの。

部下っていったって、もう
独り立ちしてる優秀カウン
セラーだよ?

別にあたしが待ってなくても
勝手にやれんだから」


「そりゃそうだけどさ、
気持ちでしょ」


「じゃあ美咲は、チーム員
全員いっつも待ってる!?」


「……い、いや、待って
ないけど」


なんだなんだ、マジで今日は
ずいぶんと絡み酒だな。


_これは早々にこの話は
終わらせた方がいいと思い、
とりあえず『まぁまぁ』と
奈々をなだめる。


「別に柚木クンのことなんか
気にしなくていいじゃん。

女二人で飲んで何が悪いのよ。
まっすぐ家に帰る方が
寂しいでしょ」


「………まぁね」


焼酎のグラスの梅干しを
ガシガシと潰しながら、
奈々はボソッと答えた。


そしてそれを一口飲むと、
ハァッと小さく息をついて、


「ま、美咲がドタキャン
されなきゃあやうくそう
なってるとこだったけど」


「あはは……」


彼氏にドタキャンされた
おかげで、あたしも友達
孝行ができたってことか。


_「拓巳クン、たまに休日
出勤とかもあるよね。大変だね」


「だねー」


「デートとか、どれくらい
してんの? 会う日ないん
じゃない?」


「ん〜……」


拓巳は土日オフだけど、
あたしは仕事がら平日が休み。

だから元から休みは重ならず、
一日二人で過ごすっていう
のはなかなか難しい。


最近は、今日がそうだった
みたいに仕事終わりで会う
ことがほとんど。


時間的に夕ご飯食べるだけに
なるけど、それをデートと
言っていいなら、


「月に5,6回かな」


そう答えると、奈々は
微妙な顔をした。


「え、何よ?」


「……少なくない?」


_「えぇっ、そう?」


「いや、わかんないけど
なんとなく。

それじゃ週一の時も
あるってことじゃん」


「……あるわよ」


というかスケジュールにも
偏りがあるから、全く
会わない週もある。
今週も結局そうなったし。


「寂しくないの?」


奈々の問いかけに、あたしは
一瞬言葉に詰まってしまった。


(寂しくないか? 
拓巳に会えなくて?)


そんなこと、考えてみれば
最近思ったことないって
気づいたから。


元々お互い仕事してて、
それぞれの日常がある。


だから会う回数はずっと
そんなもんだし、ドタキャン
されれば『え〜っ』とは
思うけど、それは“残念”とは
ちょっと違うような……。


_「別に、平気よ」


しばらく考えてから答えたら、
奈々は次はグッと顔を
寄せてきた。

そして少し押し殺した声で、


「だって、エッチも
それだけってことでしょ?」


「はぁっ!?」


いきなり何を言い出すんだ
この女は。


あたしには彼氏以外の男と
寝る趣味はない。


だからそんなのは当たり前
だけど、でも、ストレートに
聞くかな普通。


あたしは軽く焦ったけど、
奈々は酔いのせいかもう
遠慮知らずで、


「ねぇ、教えてよ。
そうでしょ?」


あぁもう、酔った親友は厄介だ。


あたしは観念して答える。


_「そりゃ……そうでしょ、普通」


「足りなくない?」


「えっっ?」


セックスって何回しないと
いけないっていうルール
あったっけ?


足りるも足りないも、
それだけしか機会が
ないんだから――。


「好きな相手なのよ?

もっといっぱい抱かれたい
って思わないの?

体が寂しくなんないの?」


調子に乗って声が大きく
なってきた奈々を、慌てて
コツンとこつく。


「変な言い方しないで。

それじゃあたしがただの
エロ女じゃない」


「ったぁ。別にそんな
つもりないよ。

恋愛には必要不可欠な
ものでしょ」


_「そりゃそうだけどさ……。
んな、体が疼くとか……」


「いや、あたし疼くとまでは
言ってないけど」


「えっ、そうだっけ!?」


ダメだダメだ、これじゃ
本当にあたしの方がエロ女。


あたしは必死で冷静さを
取り戻しながら答える。


「別に寂しくないよ。

だってエッチ目的で拓巳と
付き合ってるわけじゃないし」


――というか、実のところ。


最近では、セックスが
面倒だと思うことすら、ある。


夜から会って、ご飯を
食べてお酒を飲んで。


そうするともうけっこうな
夜中で、ホテルに移動する
頃にはそこそこ疲れ
ちゃってたり。


_拓巳は誘ってくるけど、
今日は無しで寝てもいいん
じゃない? って感じる
時もあるんだ。


言いづらいし、結局その
気にさせられてしちゃうん
だけど。



――それを奈々に話したら、
奈々は信じられないと言わん
ばかりに、あんぐりと口を
開けた。


そして言ったセリフは、


「美咲、それはもしかして、
倦怠期じゃない?」


「えっ!?」


思ってもなかった言葉に
ギョッとなる。


倦怠期? それって、何年も
連れ添った夫婦が陥る
ものじゃなかったろうか?


付き合ってけっこう長い
とは言っても、まだ3年。

しかも夫婦でもないのに、
そんな……。


_「やめてよ、そんなんじゃ
ないって」


ご勘弁と手を振るけど、
奈々は異様に真面目な顔で
あたしを見据えて、


「だってエッチが面倒とか、
会えなくても寂しくないとか、
ラブラブな女子が言うか普通?」


「だからそれは、お互い
仕事忙しいし、それで
疲れてる時だってあるし……」


知り合った時からあたし達は
それぞれ今の仕事をしてて、
同じ状況だった。


だからあたし達がこんな
感じの付き合い方なのは、
昔からだ。


「仕事と恋は別物でしょ。

たとえ忙しくたって、好き
なら会いたいし、シたいと
思うのが自然な感情じゃない。

美咲だって昔はそうだった
でしょ?」


_「昔って………」



――付き合い出した当初。


どうだったかな。

休みが合わなくてなかなか
デートできないのは、今と
一緒だった。


だから限られた時間で
会って、色んな話をして。

会う度に少しずつ拓巳の
新しい面に気づけるのが、
楽しかった記憶がある。


そして夜になったら、待ち
侘びてたように肌を重ねて――

止まらなくて夜明けまで
抱き合ってたことも、
あったかもしれない。


(あ……………)


奈々に言われて初めて
考えてみたけれど……

たしかに生活は同じでも、
あたしの心境には変化が
生まれてることに、気づいた。


_そして思い出す。


――最近時々感じていた、
“退屈だ”という気持ち――…。


(嫌だ、まさか……)


もしかして、本当にこれが
“倦怠期”っていうものなの?


でも別にあたし、拓巳に
何か不満があるわけでも
ないし、好きだからこれからも
一緒にいたいって思ってる。

それなのに……?


「だから、それが倦怠期なのよ。
言い換えれば、マンネリ?

長く一緒に居すぎて刺激が
なくなっちゃったんじゃない?」


「刺激………」


たしかにそんなものは
ないかもしれない。

付き合い始めのような、
新鮮さも。


_でも新鮮さが薄れていくのは
当然のことだし、刺激なんて
別になくてもいいんじゃないか。

刺激がないと恋愛が成り
立たないなんてことは、
ないはず。


「そうかな〜。
あたしは必要だと思うよ、刺激。

何でも同じことの繰り返し
じゃ飽きちゃうじゃん。

チョコレートクロワッサンが
大好きでも、毎朝それじゃ
飽きるのと一緒よ」


「何よ、その例え」


たしかにチョコクロは
大好物だけど。


ふに落ちない顔をする
あたしの前で、奈々は再び
グイッと焼酎をあおった。


そして、


「好きでも、慣れると
飽きてくる。

飽きないためには工夫
しなきゃね〜」


_なんて、わかったような
顔で言う。


「よく言うわよ。

てゆーか奈々に言われたく
ないし」


たしか奈々は2年以上
付き合ったことなかったはず。
前カレとも1年半で終わったし。


ふてくされた顔で、あたしも
残ってたお酒を飲み干したけど。

でも内心では、奈々に
言われた言葉が、モヤモヤと
心を覆ってた――…。





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