ギミック・ラブ ~年下小悪魔の上手な飼い方~《完》
20 正しい愛の、感じ方
☆☆☆☆☆
触れ合えば、わかること。
難しい言葉を考えなくても
想いを伝える方法があるん
だってことを、あたしは
数年ぶりに思い出した
気がしてた。
「あ……はっ……っ」
重なり合った肌が熱くて、
体が真夏の熱気にさらされた
アイスのように溶けて
しまいそう。
だけどそれよりもさらに
熱いのは、二人の体が
繋がった部分。
押し寄せた波が返すように、
ゆるやかに腰を攻めては
引かれるリズム。
でもそのリズムは時折崩れ、
予想外の快感があたしを襲う。
優しいようで激しくて。
自分勝手なようで、結局は
あたしをさらに甘く満たす。
そんなアンバランスな律動に、
あたしの意識はもう、今にも
飛んでしまいそうだ。
_だけど、そんな目まぐるしい
快楽の中でも、しっかりと
感じる。
彼があたしを、どれほど
想ってくれているか。
言葉じゃない。肌を通して
感じる気がする。
忘れてたよ。
男の人と体を重ねるのが、
こんなにも胸を締めつける
行為だってこと。
(好きだから、繋がりたい。
身も心も、溶け合いたい。
自然なことなのにね……)
拓巳との関係は、いつの
間にかそれを忘れてた。
だからきっと、拓巳の心も
あたしから離れていったの
かもしれない。
「美咲―――…」
熱っぽい声が、ベッドに
沈むあたしに降り注ぐ。
同時に腰を進められて、
さらに心と体が震えた。
_「呼んで。オレの名前」
「―――瞬也」
「……ん。これからは
ちゃんとそう呼んでよ。
“柚木クン”はもう卒業」
「わかってるよ――ん、
あぁんっ」
あたしが答えるタイミングで
グッと体を沈められて、
後半は高い嬌声になって
しまった。
「やぁっ、も、意地悪……!」
「仕方ないだろ。
好きなんだから。
可愛すぎて、抑えられない」
『覚悟して』と囁いて、
瞬也はシーツとあたしの
背中の間に腕を入れた。
そしてそのまま一気に引き、
強引にあたしを起き上がらせる。
「ああっ……やぁっ……!」
繋がった部分がグッと
深まりを増して、堪え切れず
漏れる声。
_その声を遮るように、甘い
キスが唇をふさいで――…。
「んんっ……んぁっ……」
しっかりと腰に腕を回して
突き上げてくる瞬也に、
あたしはもう会話なんて
無理だった。
ただ唇の間から切ない声を
もらして、快感に溺れる。
「あ――あぁあ、んっ――…!」
「いいよ美咲、もっと感じて。
オレに、見せて―――」
「あっ――だ、だめ――…っ」
体の芯から、大きな大きな
白い塊がのぼりつめてくる。
それを感じた瞬間、あたしの
視界は真っ白にスパークして。
支えてくれる力強い腕を
感じながら、あたしは意識を
手放した……。
―――――――…
――――――…
―――――…
_
気がつくと、見慣れた天井。
明かりを消した室内は暗くて、
寝室の中は薄暗い闇に
包まれてる。
あたしの部屋、あたしのベッド。
だけど隣には瞬也がいて、
あたしはその腕に抱かれて
眠ってたみたいだ。
「おはよ。夜だけど」
あたしが目覚めたのに
気づいて、すぐに声が
降ってくる。
首を動かして見ると、瞬也が
微笑んでるのが闇の中でも
見えた。
「……起きてたの?」
「ずっと起きてるよ。
美咲を見てた」
「え………」
まさかずっと寝顔見られてた?
それはちょっと恥ずかしい。
_照れているのが顔にも出て
いたのか、瞬也はクスクスと
楽しそうに笑いながら、
「美咲がホントにオレの
腕の中にいると思ったら、
嬉しくて眠れなかったんだよ。
それになんか寝て起きたら、
いなくなってるような気がして」
「何言ってるの。
そんなわけないでしょ」
やっと取り戻した空間なのに、
今度はあたしがいなくなる
なんてこと、ありえない。
「わかってるよ。
でも、そう思えて。
一度は諦めたつもりだった
から――」
「瞬也………」
見上げるあたしに、瞬也は
背中を丸め顔を近づけると、
軽くキスをした。
そしてもう一度ジッと
あたしを見つめ――
おもむろに、話し出す。
_「蘭子さんとああなった
時点で、オレはもう普通の
恋愛なんてできないと思ってた。
それが自分の生き方なんだと
思ったら、別に苦しくは
なかったよ。
いつの間にか、女に興味が
向くことなんてなくなってた」
暗がりの中、瞬也の目が
どこか遠い所をとらえてる。
昔を思い出してるんだろう。
「それが、ピュアスプリングに
入社して初めて、気になる
女が現れた。
いい大人なのに、やたら
仕事熱心で熱くて。
たまに子供みたいに怒ったり、
へこんだりしててさ」
「え…………」
あたしは複雑な気持ちで
小さく声をあげる。
もちろんそれはあたしの
ことを言ってくれてるん
だってわかるけど、その
言い方、あんまり褒めて
ないんですけど……。
_「……あ、ほらまた怒った。
拗ねないでよ」
「べ、別に拗ねてはないわよ」
ムキになって言い返すと、
瞬也はまた笑いながら、
『拗ねてるだろ。美咲は
わかりやすいんだから』
と囁く。
そして、あたしの頭の下に
ある右腕を曲げ、掌で優しく
あたしの髪に触れてこう続けた。
「美咲は純粋な子供みたいに
可愛かった。
オレにはそんな美咲が
眩しくて、つい気になって……。
他人に興味なんて持ったって
仕方ないと思ってたけど、
無理だったよ。――新入
社員歓迎会で、陥落した」
新入社員歓迎会。
それは前に言ってた、
入社した理由を話した
時のことだろうか。
_「それからはもうずっと、
美咲を見てたよ。
手に入れることは叶わない。
見てるだけでいいと思ってた。
近づくつもりも、全く
なかった。それが――…」
「………それが?」
「初めてキミに触れたあの日。
あの日のオレは、少し
おかしかったんだ。
蘭子さんがまたオレの
同居人にちょっかいを
出してきて、色々と揉めた
翌日だった。
きっとムシャクシャ
してたんだね」
「そうだったの……」
あの頃はまだ何も知らず、
柚木クンもおとなしい草食
男だと思ってたあたし。
彼の異変になんて、全く
気づいてなかった。
_「ウサ晴らしにでもなれば
いいと思って、柄にもなく
客を怒らせて遊んでた。
だけどそうしたら美咲が
ヘルプに来たじゃないか。
あんないい加減なオレの
前でも、キミはやっぱり真剣で。
その姿を見たら何だかもう
抑えられなくて、ヤケでも
いいから、キミが欲しくて
仕方なくて――…」
……そして、あの“お仕置き”
事件が起こったんだ。
わけがわからないと思ってた
瞬也の行動に隠された意図が
わかって、あたしは安心
したような嬉しいような、
不思議な感覚だった。
「いっそ嫌われてもいいと
思ってたよ。
だけどキミがあんな顔を
見せたから、戻れなくなった。
彼氏がいて、幸せなんだと
思ってたのにさ」
_「瞬也………」
あの時に気づかれて
しまったんだ。あたしが
かりそめの幸せに浸かってる
だけだってことに。
「だから、あたしのせいだ
なんて言ってたのね……」
「そういうこと。
まぁキミに引っぱたかれて
拒絶されたら、今オレは
ここにいなかったと思うけど」
フッと笑う瞬也の吐息が
髪に落ちた。
――あの時は何もわかって
なかった。
でも、今ならわかる。
「ずっとここにいて。
これからも」
あたしの体を抱きしめられる
距離に。
陥落したのは、あたしも同じ。
仕掛けられた恋だったけど――
あたしも、瞬也のことが
好きになってしまったから。
_「いるよ。
やっと手に入れたんだ。
もう二度と、離さない」
瞬也はそう囁いて、ギュッと
自分の胸に押しつけるように
あたしの肩を抱いた。
息の詰まるような苦しさが、
だけど、嬉しい。
「でも――…」
ふと、瞬也の声が陰りを帯びる。
わずかにためらった後、
彼は静かに言った。
「明日から、何が起こるか
わかんないよ。
いや、もしかしたら
今この時でも」
「ん………」
瞬也の言おうとしている
ことはわかる。
蘭子さんの元を飛び出して
きた瞬也。
彼女は夜まで仕事で戻らない
はずだと言ってたけど、
そろそろ気づいてるはずだ。
_彼女の家にはもう瞬也も
ファズもいなくて、携帯は
電源を切ってるから繋がらない。
あたしの所へ来たという
答えを導き出すのに、さして
時間はかからないだろう。
そして探偵の調査で、きっと
ここの住所もバレてる。
たしかに今夜のうちに蘭子
さんが乗り込んでくること
だって、充分考えられる――。
「オレはもう、あの人とは
決別する。
彼女がどんな手を使って
きても、揺らぐことはない
って言い切るよ。
だけどそれは間違いなく、
美咲にも辛い思いをさせる……」
「……わかってるよ」
蘭子さんの家でも話した
通り、そのことはあたしも
何度も考えた。
_だけどもう、あたしの心も
決まってる。
会社も住む所も追われる
かもしれないけど――
覚悟は、できてる。
「大丈夫だよ。あたしが
望んだことでもあるんだから。
どんなことになったって
後悔なんてしないし、
泣き言も言わない。
一緒に、頑張ろ」
「美咲――――」
肩を抱く瞬也の腕に、
グッと力がこもった。
想いを込めて、あたしも
キュッと瞬也の胸にすがりつく。
「もし今夜、彼女が
来なかったら。
明日、オレ達の方から
乗り込もうか」
「えっ?」
突然の申し出に少し驚いて
顔をあげると、瞬也は
まっすぐにあたしを見て、
「逃げたりコソコソしたり、
怯えて待つような生活は
したくない。
それならいっそ、って思ってさ」
_「瞬也―――…」
その言葉に、不覚にも
ジンと胸が熱くなってしまった。
以前の瞬也は無気力で、
自分から行動を起こすことを
ずっと避けてた。
その瞬也から、こんな
言葉が聞けるなんて。
瞬也はもう、変わり始めて
るんだ。
「――わかった。行こう」
そう。どうせ全部バレてる
なら同じことだ。
瞬也の言う通り、正々堂々と
自分達の気持ちを宣言しよう。
たとえそれで彼女を余計に
怒らせたって、あたし達は
戦うって、決めたんだから。
「――ん。サンキュ」
「お礼言われることじゃないよ」
そう答えて、あたしは再び、
瞬也の胸に顔をうずめた――…。
☆☆☆☆☆
_
触れ合えば、わかること。
難しい言葉を考えなくても
想いを伝える方法があるん
だってことを、あたしは
数年ぶりに思い出した
気がしてた。
「あ……はっ……っ」
重なり合った肌が熱くて、
体が真夏の熱気にさらされた
アイスのように溶けて
しまいそう。
だけどそれよりもさらに
熱いのは、二人の体が
繋がった部分。
押し寄せた波が返すように、
ゆるやかに腰を攻めては
引かれるリズム。
でもそのリズムは時折崩れ、
予想外の快感があたしを襲う。
優しいようで激しくて。
自分勝手なようで、結局は
あたしをさらに甘く満たす。
そんなアンバランスな律動に、
あたしの意識はもう、今にも
飛んでしまいそうだ。
_だけど、そんな目まぐるしい
快楽の中でも、しっかりと
感じる。
彼があたしを、どれほど
想ってくれているか。
言葉じゃない。肌を通して
感じる気がする。
忘れてたよ。
男の人と体を重ねるのが、
こんなにも胸を締めつける
行為だってこと。
(好きだから、繋がりたい。
身も心も、溶け合いたい。
自然なことなのにね……)
拓巳との関係は、いつの
間にかそれを忘れてた。
だからきっと、拓巳の心も
あたしから離れていったの
かもしれない。
「美咲―――…」
熱っぽい声が、ベッドに
沈むあたしに降り注ぐ。
同時に腰を進められて、
さらに心と体が震えた。
_「呼んで。オレの名前」
「―――瞬也」
「……ん。これからは
ちゃんとそう呼んでよ。
“柚木クン”はもう卒業」
「わかってるよ――ん、
あぁんっ」
あたしが答えるタイミングで
グッと体を沈められて、
後半は高い嬌声になって
しまった。
「やぁっ、も、意地悪……!」
「仕方ないだろ。
好きなんだから。
可愛すぎて、抑えられない」
『覚悟して』と囁いて、
瞬也はシーツとあたしの
背中の間に腕を入れた。
そしてそのまま一気に引き、
強引にあたしを起き上がらせる。
「ああっ……やぁっ……!」
繋がった部分がグッと
深まりを増して、堪え切れず
漏れる声。
_その声を遮るように、甘い
キスが唇をふさいで――…。
「んんっ……んぁっ……」
しっかりと腰に腕を回して
突き上げてくる瞬也に、
あたしはもう会話なんて
無理だった。
ただ唇の間から切ない声を
もらして、快感に溺れる。
「あ――あぁあ、んっ――…!」
「いいよ美咲、もっと感じて。
オレに、見せて―――」
「あっ――だ、だめ――…っ」
体の芯から、大きな大きな
白い塊がのぼりつめてくる。
それを感じた瞬間、あたしの
視界は真っ白にスパークして。
支えてくれる力強い腕を
感じながら、あたしは意識を
手放した……。
―――――――…
――――――…
―――――…
_
気がつくと、見慣れた天井。
明かりを消した室内は暗くて、
寝室の中は薄暗い闇に
包まれてる。
あたしの部屋、あたしのベッド。
だけど隣には瞬也がいて、
あたしはその腕に抱かれて
眠ってたみたいだ。
「おはよ。夜だけど」
あたしが目覚めたのに
気づいて、すぐに声が
降ってくる。
首を動かして見ると、瞬也が
微笑んでるのが闇の中でも
見えた。
「……起きてたの?」
「ずっと起きてるよ。
美咲を見てた」
「え………」
まさかずっと寝顔見られてた?
それはちょっと恥ずかしい。
_照れているのが顔にも出て
いたのか、瞬也はクスクスと
楽しそうに笑いながら、
「美咲がホントにオレの
腕の中にいると思ったら、
嬉しくて眠れなかったんだよ。
それになんか寝て起きたら、
いなくなってるような気がして」
「何言ってるの。
そんなわけないでしょ」
やっと取り戻した空間なのに、
今度はあたしがいなくなる
なんてこと、ありえない。
「わかってるよ。
でも、そう思えて。
一度は諦めたつもりだった
から――」
「瞬也………」
見上げるあたしに、瞬也は
背中を丸め顔を近づけると、
軽くキスをした。
そしてもう一度ジッと
あたしを見つめ――
おもむろに、話し出す。
_「蘭子さんとああなった
時点で、オレはもう普通の
恋愛なんてできないと思ってた。
それが自分の生き方なんだと
思ったら、別に苦しくは
なかったよ。
いつの間にか、女に興味が
向くことなんてなくなってた」
暗がりの中、瞬也の目が
どこか遠い所をとらえてる。
昔を思い出してるんだろう。
「それが、ピュアスプリングに
入社して初めて、気になる
女が現れた。
いい大人なのに、やたら
仕事熱心で熱くて。
たまに子供みたいに怒ったり、
へこんだりしててさ」
「え…………」
あたしは複雑な気持ちで
小さく声をあげる。
もちろんそれはあたしの
ことを言ってくれてるん
だってわかるけど、その
言い方、あんまり褒めて
ないんですけど……。
_「……あ、ほらまた怒った。
拗ねないでよ」
「べ、別に拗ねてはないわよ」
ムキになって言い返すと、
瞬也はまた笑いながら、
『拗ねてるだろ。美咲は
わかりやすいんだから』
と囁く。
そして、あたしの頭の下に
ある右腕を曲げ、掌で優しく
あたしの髪に触れてこう続けた。
「美咲は純粋な子供みたいに
可愛かった。
オレにはそんな美咲が
眩しくて、つい気になって……。
他人に興味なんて持ったって
仕方ないと思ってたけど、
無理だったよ。――新入
社員歓迎会で、陥落した」
新入社員歓迎会。
それは前に言ってた、
入社した理由を話した
時のことだろうか。
_「それからはもうずっと、
美咲を見てたよ。
手に入れることは叶わない。
見てるだけでいいと思ってた。
近づくつもりも、全く
なかった。それが――…」
「………それが?」
「初めてキミに触れたあの日。
あの日のオレは、少し
おかしかったんだ。
蘭子さんがまたオレの
同居人にちょっかいを
出してきて、色々と揉めた
翌日だった。
きっとムシャクシャ
してたんだね」
「そうだったの……」
あの頃はまだ何も知らず、
柚木クンもおとなしい草食
男だと思ってたあたし。
彼の異変になんて、全く
気づいてなかった。
_「ウサ晴らしにでもなれば
いいと思って、柄にもなく
客を怒らせて遊んでた。
だけどそうしたら美咲が
ヘルプに来たじゃないか。
あんないい加減なオレの
前でも、キミはやっぱり真剣で。
その姿を見たら何だかもう
抑えられなくて、ヤケでも
いいから、キミが欲しくて
仕方なくて――…」
……そして、あの“お仕置き”
事件が起こったんだ。
わけがわからないと思ってた
瞬也の行動に隠された意図が
わかって、あたしは安心
したような嬉しいような、
不思議な感覚だった。
「いっそ嫌われてもいいと
思ってたよ。
だけどキミがあんな顔を
見せたから、戻れなくなった。
彼氏がいて、幸せなんだと
思ってたのにさ」
_「瞬也………」
あの時に気づかれて
しまったんだ。あたしが
かりそめの幸せに浸かってる
だけだってことに。
「だから、あたしのせいだ
なんて言ってたのね……」
「そういうこと。
まぁキミに引っぱたかれて
拒絶されたら、今オレは
ここにいなかったと思うけど」
フッと笑う瞬也の吐息が
髪に落ちた。
――あの時は何もわかって
なかった。
でも、今ならわかる。
「ずっとここにいて。
これからも」
あたしの体を抱きしめられる
距離に。
陥落したのは、あたしも同じ。
仕掛けられた恋だったけど――
あたしも、瞬也のことが
好きになってしまったから。
_「いるよ。
やっと手に入れたんだ。
もう二度と、離さない」
瞬也はそう囁いて、ギュッと
自分の胸に押しつけるように
あたしの肩を抱いた。
息の詰まるような苦しさが、
だけど、嬉しい。
「でも――…」
ふと、瞬也の声が陰りを帯びる。
わずかにためらった後、
彼は静かに言った。
「明日から、何が起こるか
わかんないよ。
いや、もしかしたら
今この時でも」
「ん………」
瞬也の言おうとしている
ことはわかる。
蘭子さんの元を飛び出して
きた瞬也。
彼女は夜まで仕事で戻らない
はずだと言ってたけど、
そろそろ気づいてるはずだ。
_彼女の家にはもう瞬也も
ファズもいなくて、携帯は
電源を切ってるから繋がらない。
あたしの所へ来たという
答えを導き出すのに、さして
時間はかからないだろう。
そして探偵の調査で、きっと
ここの住所もバレてる。
たしかに今夜のうちに蘭子
さんが乗り込んでくること
だって、充分考えられる――。
「オレはもう、あの人とは
決別する。
彼女がどんな手を使って
きても、揺らぐことはない
って言い切るよ。
だけどそれは間違いなく、
美咲にも辛い思いをさせる……」
「……わかってるよ」
蘭子さんの家でも話した
通り、そのことはあたしも
何度も考えた。
_だけどもう、あたしの心も
決まってる。
会社も住む所も追われる
かもしれないけど――
覚悟は、できてる。
「大丈夫だよ。あたしが
望んだことでもあるんだから。
どんなことになったって
後悔なんてしないし、
泣き言も言わない。
一緒に、頑張ろ」
「美咲――――」
肩を抱く瞬也の腕に、
グッと力がこもった。
想いを込めて、あたしも
キュッと瞬也の胸にすがりつく。
「もし今夜、彼女が
来なかったら。
明日、オレ達の方から
乗り込もうか」
「えっ?」
突然の申し出に少し驚いて
顔をあげると、瞬也は
まっすぐにあたしを見て、
「逃げたりコソコソしたり、
怯えて待つような生活は
したくない。
それならいっそ、って思ってさ」
_「瞬也―――…」
その言葉に、不覚にも
ジンと胸が熱くなってしまった。
以前の瞬也は無気力で、
自分から行動を起こすことを
ずっと避けてた。
その瞬也から、こんな
言葉が聞けるなんて。
瞬也はもう、変わり始めて
るんだ。
「――わかった。行こう」
そう。どうせ全部バレてる
なら同じことだ。
瞬也の言う通り、正々堂々と
自分達の気持ちを宣言しよう。
たとえそれで彼女を余計に
怒らせたって、あたし達は
戦うって、決めたんだから。
「――ん。サンキュ」
「お礼言われることじゃないよ」
そう答えて、あたしは再び、
瞬也の胸に顔をうずめた――…。
☆☆☆☆☆
_