ギミック・ラブ ~年下小悪魔の上手な飼い方~《完》
6 彼氏にバレない嘘の、つき方
☆☆☆☆☆
「……美咲? どうした?」
ナイフを使う手を止めて、
拓巳が尋ねてきた。
あたしがピクッと顔を
あげて、『え、何が?』と
聞き返すと、
「いや、なんか元気ないから。
もしかして今日、疲れてたか?」
「え…………」
奈々だけでなく拓巳にまで
言われてしまった“元気が
ない”という言葉に、
あたしは内心辟易しながら、
「そんなことないよ」
と、ムリヤリに笑う。
仕事終わりで、こっちの
最寄り駅まで来てくれた
拓巳と会って、拓巳が予約
しといてくれたフレンチの
店に入った。
_だけど、向かい合って食事を
しながらも、正直あたしは
上の空だった。
せっかくのおいしい料理も、
しばらくぶりに会った拓巳
との会話も、全部が心の
少し横を、すき間風の
ようにすり抜けてく。
……理由はわかってる。
昼間の柚木クンに言われた
言葉が、あたしの中に重い
石のように、鎮座してるから。
(………何なのよ、一体)
何だかもう、頭の中が
グチャグチャでよくわからない。
柚木クンはあたしのことも、
ましてや拓巳のことなんて
これっぽっちも知らない。
そんなヤツが言ったこと
なんて、気にしなければいい。
それはわかってる。
_わかってるのにどうしても、
放たれた意味深な言葉の
ひとつひとつが、頭から
離れなくて。
(無益? 怖がり?
何なのよそれ。
そんなわけ、ないじゃない)
あたしは、拓巳のことが
好きだから付き合ってるんだ。
もう子供じゃないし付き
合って時間も長いから、
女子高生の恋のような
ときめきはない。
だけどそれはそういう恋の
形であって、柚木クンが
言うようなこととは、
絶対に違う――。
「――どうしたんだよ?
仕事でなんかあったんじゃ
ないのか?
俺でよかったら聞くから話せよ」
_ほら。なんだかんだで、
拓巳は優しい。
係長に就任して責任も重く
なってからは、仕事人間な
面がたまに傷って思う
こともある。
だけどそれでも、拓巳が
あたしを好きでいてくれる
のはハッキリしてる。
今日だって、こないだの
ドタキャンの埋め合わせで
食事をおごってくれて、
こうしてあたしを気遣って
くれて。
優しい――いい、恋人だ。
(なのにあたしは、何を
考えてるの……)
そもそも今夜あたしも
会いたいと思ったのは、
拓巳に会って、昨日の柚木
クンとのことなんてスッパリ
忘れてしまおうと思った
からなのに。
_でも昼間にあんなことが
あったせいで、また、
あたしの頭は柚木クンの
ことで一杯だなんて。
こんなんじゃ、ダメだ。
あんな後輩に振り回されて
自分を見失うなんて、本当に
どうかしてる――…。
「ホントに何でもないよ。
あたしの仕事はいたって順調。
ってゆーか、代わり映え
なんてなーんにもないんだから」
言いながらチクッと胸が
痛んだけど、それには目を
背けてあたしは笑った。
柚木クンが何を言おうが、
あたしは夕べのことなんて
忘れる。
そう決めたからには、
貫くしかない。
「そっか? それならいいけど」
_あたしのキッパリした返事で
ようやく納得したらしく、
拓巳も笑ってフォークを
口に運んだ。
あたしはすかざず質問して、
話題を変える。
「それより拓巳は?
こないだ残業になったの、
トラブルじゃなかったの?」
「ああ……まぁトラブルっちゃ
トラブルだけど、どうにか
なったよ。
取引先のミスでさ、
こっちは被害者だったから。
電話で散々がなってやった」
「プッ……がなるって。
大変ねー、係長さんも」
「中間管理職が辛いのは
どこも一緒だろ。
もうちょい上に行くまでは、
仕方ないさ」
「そうだねー」
_係長とチーフ。職種は
違っても、立場は似てる。
それに歳もひとつ違いで、
あたしと拓巳の感覚は
本当に近い。
だから、知り合った頃から
拓巳とはなんでも対等に
話が出来た。
それがあたしには、すごく
心地いい。
「……明日の朝は?
いつも通り?」
料理が一通り終わって
デザートを待つ頃になると、
あたしから拓巳に尋ねた。
拓巳はすぐに頷いて、
「あぁ。美咲んちから直接行く」
「……ん、わかった」
デートの夜は、あたしの
家で泊まりになるのが一番
多い流れ。
_どっちの家も都内にあるけど、
行き来してるうちにあたしの
部屋に拓巳の着替えが常備
されるようになったから、
急だとその方が好都合なんだ。
でもあたしの部屋だと、
拓巳は少し会社が遠くなる。
もし早く出勤する予定に
なってると大変だから
聞いたんだけど、問題ない
ようだった。
―――その後デザートを
食べ終えて、もう少し
ワインを楽しんでから、
あたし達は店を出た。
タクシーに乗って30分ほどで、
あたしのマンションに帰り着く。
慣れた手つきで拓巳の
スーツをハンガーにかけて、
自分もスーツの上を
脱ごうとしたら――…。
_「や……ちょっと……」
せっかちな腕が、脱ぎかけの
ジャケットもろとも、
グッとあたしを抱きしめる。
「もう、シワになるでしょ」
自分は脱いだからいいなんて
思ってたら、ちょっと勝手。
あたしは一旦やんわりと
その腕を解いて、急いで
脱いだジャケットを椅子の
背にかけた。
のんびりハンガーにかけてる
時間は、なさそうだったから。
お預けをくらった腕がすぐに
またあたしを引き寄せ、
密着する体。
吸い寄せられるように
自然と、唇が重なる。
「ぁ………んっ」
もつれあう舌に体が熱さを
増すと共に、拓巳の大きな
掌が、布の上からそっと
あたしの胸に触れる。
_全体を包み込んで円を描く
ように揉まれて、吐息の
ような声がもれた。
「んん……っぁ、ん……」
キスが名前を変えて首筋
へと伝い、胸を刺激する
動きが強さを増す。
両足の間には拓巳の右足が
滑り込んできて、パンスト
越しに内股に触れるスーツの
生地の感触がくすぐったかった。
「美咲………」
「ふ………ぁ、……拓巳……」
何度となく、重ねてきた行為。
いつもと同じ香りと温もり。
拓巳と肌を重ねるのは、
あたしにとってはごく
当たり前の、自然なこと。
「好きだぜ、美咲」
_囁きと共に、首筋にあった
唇がより深く、あたしの
谷間に沈もうとした。
いつの間にかブラウスの
ボタンは外されてる。
「あっ………」
谷間に拓巳の唇が吸い付き、
反対のそれを揉む手の力も
強まった時。
―――あたしはなぜか、
思い出してしまった。
絶対に思い出したくなんか
ないはずの、あのセリフを。
『意味あるんですか?
そんな、無益なセックス』
(や………どうして………?)
どうしてこんな時に
思い出してしまうのか。
よりにもよって一番思い
出したくない時に。
_だけどその声は、まるで
こうなることがわかってた
かのように、嘲るニュアンスで
あたしの頭の中に響き渡る。
(な、んで……!)
そう思いながらも、体の
熱が幻のように消え去って
いくのが、ハッキリとわかった。
急に、今している行為が
本当に恥ずかしいことの
ように思えてくる。
それを認識した瞬間に、
あたしの腕は、拓巳の腕を
掴んでいた。
「………美咲?」
「ゴ、ゴメン。
なんか今日は……
酔いすぎたかも……」
嘘だ。少しも、気分が悪い
ほど酔ってなんかない。
_デタラメを口から吐きながら、
あたしは圧倒的な敗北感を
感じていた。
何にかは、よくわからない
けれど。
「………ゴメンね」
拓巳の腕をすり抜けながら、
あたしは押し寄せる悔しさに、
強く強く、唇を噛んだ……。
☆☆☆☆☆
_
「……美咲? どうした?」
ナイフを使う手を止めて、
拓巳が尋ねてきた。
あたしがピクッと顔を
あげて、『え、何が?』と
聞き返すと、
「いや、なんか元気ないから。
もしかして今日、疲れてたか?」
「え…………」
奈々だけでなく拓巳にまで
言われてしまった“元気が
ない”という言葉に、
あたしは内心辟易しながら、
「そんなことないよ」
と、ムリヤリに笑う。
仕事終わりで、こっちの
最寄り駅まで来てくれた
拓巳と会って、拓巳が予約
しといてくれたフレンチの
店に入った。
_だけど、向かい合って食事を
しながらも、正直あたしは
上の空だった。
せっかくのおいしい料理も、
しばらくぶりに会った拓巳
との会話も、全部が心の
少し横を、すき間風の
ようにすり抜けてく。
……理由はわかってる。
昼間の柚木クンに言われた
言葉が、あたしの中に重い
石のように、鎮座してるから。
(………何なのよ、一体)
何だかもう、頭の中が
グチャグチャでよくわからない。
柚木クンはあたしのことも、
ましてや拓巳のことなんて
これっぽっちも知らない。
そんなヤツが言ったこと
なんて、気にしなければいい。
それはわかってる。
_わかってるのにどうしても、
放たれた意味深な言葉の
ひとつひとつが、頭から
離れなくて。
(無益? 怖がり?
何なのよそれ。
そんなわけ、ないじゃない)
あたしは、拓巳のことが
好きだから付き合ってるんだ。
もう子供じゃないし付き
合って時間も長いから、
女子高生の恋のような
ときめきはない。
だけどそれはそういう恋の
形であって、柚木クンが
言うようなこととは、
絶対に違う――。
「――どうしたんだよ?
仕事でなんかあったんじゃ
ないのか?
俺でよかったら聞くから話せよ」
_ほら。なんだかんだで、
拓巳は優しい。
係長に就任して責任も重く
なってからは、仕事人間な
面がたまに傷って思う
こともある。
だけどそれでも、拓巳が
あたしを好きでいてくれる
のはハッキリしてる。
今日だって、こないだの
ドタキャンの埋め合わせで
食事をおごってくれて、
こうしてあたしを気遣って
くれて。
優しい――いい、恋人だ。
(なのにあたしは、何を
考えてるの……)
そもそも今夜あたしも
会いたいと思ったのは、
拓巳に会って、昨日の柚木
クンとのことなんてスッパリ
忘れてしまおうと思った
からなのに。
_でも昼間にあんなことが
あったせいで、また、
あたしの頭は柚木クンの
ことで一杯だなんて。
こんなんじゃ、ダメだ。
あんな後輩に振り回されて
自分を見失うなんて、本当に
どうかしてる――…。
「ホントに何でもないよ。
あたしの仕事はいたって順調。
ってゆーか、代わり映え
なんてなーんにもないんだから」
言いながらチクッと胸が
痛んだけど、それには目を
背けてあたしは笑った。
柚木クンが何を言おうが、
あたしは夕べのことなんて
忘れる。
そう決めたからには、
貫くしかない。
「そっか? それならいいけど」
_あたしのキッパリした返事で
ようやく納得したらしく、
拓巳も笑ってフォークを
口に運んだ。
あたしはすかざず質問して、
話題を変える。
「それより拓巳は?
こないだ残業になったの、
トラブルじゃなかったの?」
「ああ……まぁトラブルっちゃ
トラブルだけど、どうにか
なったよ。
取引先のミスでさ、
こっちは被害者だったから。
電話で散々がなってやった」
「プッ……がなるって。
大変ねー、係長さんも」
「中間管理職が辛いのは
どこも一緒だろ。
もうちょい上に行くまでは、
仕方ないさ」
「そうだねー」
_係長とチーフ。職種は
違っても、立場は似てる。
それに歳もひとつ違いで、
あたしと拓巳の感覚は
本当に近い。
だから、知り合った頃から
拓巳とはなんでも対等に
話が出来た。
それがあたしには、すごく
心地いい。
「……明日の朝は?
いつも通り?」
料理が一通り終わって
デザートを待つ頃になると、
あたしから拓巳に尋ねた。
拓巳はすぐに頷いて、
「あぁ。美咲んちから直接行く」
「……ん、わかった」
デートの夜は、あたしの
家で泊まりになるのが一番
多い流れ。
_どっちの家も都内にあるけど、
行き来してるうちにあたしの
部屋に拓巳の着替えが常備
されるようになったから、
急だとその方が好都合なんだ。
でもあたしの部屋だと、
拓巳は少し会社が遠くなる。
もし早く出勤する予定に
なってると大変だから
聞いたんだけど、問題ない
ようだった。
―――その後デザートを
食べ終えて、もう少し
ワインを楽しんでから、
あたし達は店を出た。
タクシーに乗って30分ほどで、
あたしのマンションに帰り着く。
慣れた手つきで拓巳の
スーツをハンガーにかけて、
自分もスーツの上を
脱ごうとしたら――…。
_「や……ちょっと……」
せっかちな腕が、脱ぎかけの
ジャケットもろとも、
グッとあたしを抱きしめる。
「もう、シワになるでしょ」
自分は脱いだからいいなんて
思ってたら、ちょっと勝手。
あたしは一旦やんわりと
その腕を解いて、急いで
脱いだジャケットを椅子の
背にかけた。
のんびりハンガーにかけてる
時間は、なさそうだったから。
お預けをくらった腕がすぐに
またあたしを引き寄せ、
密着する体。
吸い寄せられるように
自然と、唇が重なる。
「ぁ………んっ」
もつれあう舌に体が熱さを
増すと共に、拓巳の大きな
掌が、布の上からそっと
あたしの胸に触れる。
_全体を包み込んで円を描く
ように揉まれて、吐息の
ような声がもれた。
「んん……っぁ、ん……」
キスが名前を変えて首筋
へと伝い、胸を刺激する
動きが強さを増す。
両足の間には拓巳の右足が
滑り込んできて、パンスト
越しに内股に触れるスーツの
生地の感触がくすぐったかった。
「美咲………」
「ふ………ぁ、……拓巳……」
何度となく、重ねてきた行為。
いつもと同じ香りと温もり。
拓巳と肌を重ねるのは、
あたしにとってはごく
当たり前の、自然なこと。
「好きだぜ、美咲」
_囁きと共に、首筋にあった
唇がより深く、あたしの
谷間に沈もうとした。
いつの間にかブラウスの
ボタンは外されてる。
「あっ………」
谷間に拓巳の唇が吸い付き、
反対のそれを揉む手の力も
強まった時。
―――あたしはなぜか、
思い出してしまった。
絶対に思い出したくなんか
ないはずの、あのセリフを。
『意味あるんですか?
そんな、無益なセックス』
(や………どうして………?)
どうしてこんな時に
思い出してしまうのか。
よりにもよって一番思い
出したくない時に。
_だけどその声は、まるで
こうなることがわかってた
かのように、嘲るニュアンスで
あたしの頭の中に響き渡る。
(な、んで……!)
そう思いながらも、体の
熱が幻のように消え去って
いくのが、ハッキリとわかった。
急に、今している行為が
本当に恥ずかしいことの
ように思えてくる。
それを認識した瞬間に、
あたしの腕は、拓巳の腕を
掴んでいた。
「………美咲?」
「ゴ、ゴメン。
なんか今日は……
酔いすぎたかも……」
嘘だ。少しも、気分が悪い
ほど酔ってなんかない。
_デタラメを口から吐きながら、
あたしは圧倒的な敗北感を
感じていた。
何にかは、よくわからない
けれど。
「………ゴメンね」
拓巳の腕をすり抜けながら、
あたしは押し寄せる悔しさに、
強く強く、唇を噛んだ……。
☆☆☆☆☆
_