ギミック・ラブ ~年下小悪魔の上手な飼い方~《完》
8 ベッドでの正しい、乱れ方
☆☆☆☆☆
「何、そのひどい顔」
夜空の下であたしを
出迎えたのは、予想外の
冷たい声だった。
「柚木ク――!?
ど…、して……!?」
嗚咽をこぼしながら拓巳の
マンションを出て少し
歩いた所で、道路脇に
柚木クンが立ってたんだ。
街路樹にもたれるように
して腕を組み、あたしを見てる。
「待てって言ったのに
待たないから、追いかけて
きたんだけど」
目を細めて、責めるような
言葉を投げて。
――それじゃあ何?
あたしを追って店を出て、
タクシーでついて来てた
ってこと?
_「どうしてそんなこと……」
こんな状況と泣き顔を
見られたことに動揺して、
慌てて手の甲で涙を拭う。
そんなことしたって今さら
なのは、重々承知してるけど。
「――逃げられるのは
好きじゃないから」
歌うようにそう言って、
柚木クンはもたれてた
木から身を起こした。
そして一歩、また一歩と
あたしの方へ進みながら、
言葉を続ける。
「オレの言うこと聞かないで
つまんない彼氏の所に行く
とか、許さないし。
でも――邪魔するまでも、
なかったみたいだけどね」
「……………っ!!」
どこまで感づいてるんだろう。
_……なんて、愚問。
とんぼ返りって言っていい
ほどの短時間で、涙を流し
ながら飛び出して来たんだ。
図星でなくても、もうほとんど
正解を導き出してるはず。
「……笑えばいいじゃない」
柚木クンにしてみればいい
気味だろう。
彼に反発して幸せぶってた
あたしは、実は浮気されて
ました。
そう……あたしは柚木クンの
言うとおり、これっぽっちも
幸せなんかじゃなかったの。
「そら見たことかって、笑えば?
いいザマでしょ?」
自暴自棄に叫ぶと、やっと
口から笑い声が漏れる。
よかった、笑えた。
……自分自身を嘲る、嘲笑
だけど。
_柚木クンにも笑われて罵倒
されれば、いっそスッキリ
するかもしれない。
そう思ったのに――こんな
時でさえ、彼は、意地悪だった。
柚木クンはあたしの前に
立つとスッと片手を伸ばし、
まだ乾き切らないあたしの
頬をゆっくりと撫でて、
「別に失恋した女の子を
笑うような趣味はないよ。
てゆーか里中さん、誤解してる」
「誤解……?」
頬に触れる指先に少なからず
ドキドキしながら、かすれる
声で聞き返す。
柚木クンは短く頷いて、
「オレは別に、里中さんが
彼氏に振られればいいとは
一言も言ってないよ。
ただ、自分は幸せだって
思い込むのをやめればって
言っただけ」
_「……同じようなことじゃない」
「どこが。全然違うだろ」
呆れた声で言って――次の
瞬間、彼は頬に触れてた
手を首の後ろに回し、
グイッと引いた。
あたしの顔は、強引に彼の
胸にうずめられる。
起き上がろうにも押さえ
つけるようにしっかりと
固定されてて、無理だった。
「やっ……何すっ――…」
「何って、文字通り胸を
貸してるんだよ。
悲しいなら、もっと泣けばいい」
「やめてよっ。そんなの
いらない……!」
どうして、あなたはそうなの?
さっきまで散々あたしの
心をえぐるようなことを
言ってたくせに、なぜ今に
なって急にそんなことを
言うのよ。
_今のあたしには――優しい
言葉の方が、痛いの。
自分自身に呆れ返ってる
今は、いっそ笑い飛ばして
くれた方が、どんなにか
楽なのに……!
「離してよっ。離してっ……」
一度は止まったはずの涙が、
またあたしの視界を揺らす。
懸命に我慢しようとした
けど、多分効果はほとんど
なかった。
「完全に失えば、何だって
寂しい。
いいじゃん。泣けば」
ホラ――あなたが、
そんなことを言うから。
熱い雫は、再び頬を伝う。
後から後から溢れ出て、
音もなく、柚木クンの
コートにシミを作っていく。
_くぐもった嗚咽を漏らし
ながら、あたしは柚木クンの
胸で泣いた。
気づけば両手も彼のコートを
ギュッと掴み、本当に、
感情のほとばしるまま
泣いていた。
――悲しくて、悔しくて、
馬鹿みたいで。
色んな感情がゴチャ混ぜで
よくわからなくて――もう、
涙と一緒に全部流して
しまいたいと思えてくる。
柚木クンは何も言わず、
ただ本当に“胸を貸して”
くれてた。
だけどやがて、あたしの
後頭部に指を入れ、髪を
すくようにして少しだけ
上を向かせると、
「……やっぱ、ひどい顔」
「……………っ」
_そりゃ、これだけ泣けば
メイクもグシャグシャだし、
目も腫れてしまってるだろう。
予想はつくけど……だから
ってわざわざそんなこと
言わなくてもいいじゃない。
「泣けって言ったの……
柚木ク、でしょっ……」
「あー、別にいいよ、
しゃべんなくて。
てゆーか、もういい」
「………………?」
「それだけ泣けば充分だろ。
拓巳サンとやらには。
――後の涙は、オレが貰う」
(は――――…?)
声にならない声をあげて、
ポカンとした瞬間。
唇に一陣の風のように舞い
降りたキスが、あたしの
呼吸を奪っていった。
_「んんっ………!?」
驚きに硬直するあたしを
強く抱きしめて、性急に
深さを増す激しいキス。
巧みな舌使いに、なす術も
なく翻弄される。
「ぅんっ……ふぁっ……」
拓巳のそれとは全然違う、
荒々しいキスだ。
こんなキスは初めてで、
頭の芯がジンと痺れる
ように熱くなる――…。
「――そんな顔してたら
奪っちゃうけど。
マジでもう逃げ道ないよ、
里中さん?」
キスの合間に、耳元に声が
埋められた。
でももうあたしには、その
意味もよくわからなかった。
……忘れられれば、もう
どうでもいい。
そんなふうに、思ったの
かもしれない。
_だってあたしはもう、拓巳
とは終わったんだから。
これから何が起ころうと、
あたしが拓巳に責められる
ことはないし――ああ違う。
もう、拓巳のことなんて
考えるのはやめよう。
――落ちてしまえばいい、
このまま。
このキスに酔っていれば、
あたしはきっと、これ以上
悲しい涙を流さなくて
いいんだから。
「柚木ク―――…」
あたしを支える腕に、
しっかりと体を預け。
あたしは無意識のうちに、
濡れた声でその名を呼んで
いた――…。
☆☆☆☆☆
_ ☆☆☆☆☆
「っあぁっ……っはっ……
やぁっ……っ」
敏感なそこに触れられる
たびに、抑えられない嬌声が
漏れてしまう。
シャワーを浴びた体は、
元からバスローブ以外の
隠す物を身につけてない。
そして今やそのローブは
取り払われ、ベッドの傍の
床に落ちていた。
あたしはあられもない姿を
ベッドの上に投げ出し、
さっきからひっきりなしに
声をあげている。
あたしの上の柚木クンは
まだバスローブを着てるのに
フェアじゃない気がしてた
けど、そんなことを口にする
余裕はカケラもなかった。
_両の胸の膨らみに、片方は
手で、もう片方は舌で、
繰り返される愛撫。
掌で弧を描くように揉み
しだいては、時折指先で
先端の蕾をキュッとつまみ、
押さえつける。
と同時に反対は、ざらついた
熱い舌で丁寧に先端の周りを
なぞり、たっぷりじらして
から中心を口に含んでは、
コロコロと転がすように
もてあそぶ。
緩急をつけて止まること
なく与えられる快感に、
あたしの体はとうにとろけ、
内から沸き上がる衝動を
抑えようがなくなってた。
胸に刺激が与えられるたび、
その快感は体の奥底へと
走り、もどかしい痺れを
強くする。
……無意識のうちにビクン
ビクンと、腰が跳ねてしまう。
_「……どんだけ感じてんの。
こんな感じやすい体初めて見た」
クスクスと笑い混じりに
囁く声ですら、もうあたしを
惑わす媚薬だった。
あたしは涙に潤んだ瞳で
柚木クンを見上げ、懇願する。
「そんなこと、言わないで……」
「でも実際そうだし。――ほら」
「ぁあんっ……」
キュッとつままれただけで、
驚くほど高い声が喉をついた。
「言ったろ。里中さんの
体は正直なんだって」
サラリと言ってのけた
声とは裏腹に、柚木クンの
手は素早く動く。
あたしの脇腹を撫でる
ようにかすめて腰におり、
足の付け根へ。
そしてそこから両足の
隙間に入り込み、一番
敏感な、その場所へ――…。
_「やぁぁっ……
ダメ、そこはっ……」
柚木クンの細い指がスッと
なぞっただけで、もうそこは
驚くほど甘い蜜で溢れてる
のが、自分でもわかった。
恥ずかしい。でもそれと
同時に、触れられたことで
一気に高まった熱が、
ほてった体をさらに焼く。
「嘘つき」
『ダメ』なんて言ったから
だろうか。
柚木クンはそう言って、
声を奪うようにキスで唇を
ふさいだ。
そして秘部に触れる指を、
明確な意志を持って一気に
進める。
両のヒダを押し開き、甘く
濡れた中心へ指を埋め。
浅く深く出入りしては、
感じるポイントを探すように、
あたしの中を掻き乱す。
_「んんっ、ぅんっ、んふぅっ」
声をあげようにも、唇を
ふさがれていてかなわない。
あたしはくぐもった息を
漏らして体をくねらすのが
精一杯だった。
――キスをされ、触れられ、
感じてる。
今日初めて抱かれる、彼――
ただの後輩だったはずの、
柚木クンに。
「……ね、気持ちいい?」
ふいにキスを解いた柚木
クンが、あたしを覗き込んで
聞いてきた。
あたしは気恥ずかしくて、
思わず目をそらしてしまう。
だけどその途端、彼は
あたしの中に埋めた指を、
角度を変えてグイッと
攻め立てた。
「ひぁっ…ぁっ、ぁっんっ」
_「正直に言わないと、お仕置き。
あのね里中さん、
教えといてあげる。
ベッドの中では、全部
捨てて正直になればいい。
男には、それが一番キクんだよ」
「え………?」
濡れた視界の中で、柚木
クンはそっと目を細めて続けた。
「くだらない意地も、変な
気遣いもいらない。
ただ自分が気持ちよくなる
ことだけ、考えればいいんだ」
(意地も、気遣いも――…)
そう言われて、ふと拓巳の
ことを思い出した。
思えば拓巳とのセックスは、
したがる彼に合わせてる
時があったかもしれない。
もしかしたらそれも、
“変な気遣い”だったのかも。
_「ほら……正直に、言ってよ。
そしたらオレが、もっと
もっと感じさせてやる。
今まで経験したことない
くらいに」
「あっ……柚木ク――!」
ユルユルと出入りしてた
指があたしの中の敏感な
所を探し当て、執拗に
そこを追い立てた。
強すぎる快感に、あたしは
電気を流されたように背中を
しならせる。
「あっぁっ……
き、気持ちぃ…っ」
もう、羞恥心をかなぐり
捨てて、心の赴くまま叫んだ。
柚木クンがそれでいいと
言うならそうなんだろうと、
あたしにも思えたから。
「あっ…んっ……いいよ……っ」
_腰を弾ませ、快感に溺れる。
熱く雫を生み続けるそこに、
柚木クンが自身のたかぶりを
押し当てた。
迫りくる圧迫感にほんの
少し体を強張らせた時、
彼が風のように囁く。
「美咲――…」
(………え………?)
初めて呼ばれた下の名前。
彼の声がこの名を口にする
なんて、何だか不思議で
ドキッとした。
そんなあたしに、柚木クンは
少しだけ唇の端をあげて笑って、
「いつまでも苗字じゃ、
いくらなんでもムード
ないでしょ。
ね……こっちの方が
断然いいよ、美咲」
_そう言ってゆっくりと腰を
沈めてくる、思いのほか
筋肉のついた、たくましい体。
「あ……ぁぁっ、っん……っ」
「美咲は、オレの名前
知ってる?」
「えっ………」
この状況でそんなこと
言われても、答えられ
なければ頭も働かない。
……何だっけ。
一応知ってた気がするけど
呼んだことないし、意識
したこともなかったし……。
――困ってたら、柚木クンは
わりとすんなり諦めて、
答えをくれた。
「瞬也(シュンヤ)だよ。
部下の名前くらい、
ちゃんと覚えといて」
そんなこと言われても
チーム員じゃないのに、
そこまで頭回らない――
なんてことは、反論する
暇もない。
_圧倒的な重量感を持って、
柚木クンがあたしの中に
押し入ってきた。
目も眩むような新しい快感に、
あたしの意識はまたあっと
いう間に霧散してしまう。
「はっ……ぁぁっ……
柚木ク……ッ」
「瞬也だって」
「あんんっ」
声に合わせてズンと突かれて、
それだけであたしはもう
限界を感じかけてた。
「ほら――呼んで。
でないともっといじめるけど」
「あ…んっ。しゅ、瞬也っ……」
「よく出来ました」
結局さらにあおられて、
何がお仕置きで何がご褒美
かもよくわからない。
_だけどもう、どっちでも
よかった。
柚木ク――瞬也のくれる
快感は、本当にひと波ごとに
あたしを溺れさせて、どん
どんおかしくしていってたから。
激しく叩きつけられて、
深く深く、繋がるカラダ。
また新しい波が押し寄せる。
そうしてあたしを、壊していく。
終わりのない嬌声と一緒に、
あたしは何度も、与えられた
新しい呼び名を呼んでいた。
その一声ごとに、彼から
抜け出せなくなるかもしれない。
そんな錯覚を、感じながら。
☆☆☆☆☆
_
「何、そのひどい顔」
夜空の下であたしを
出迎えたのは、予想外の
冷たい声だった。
「柚木ク――!?
ど…、して……!?」
嗚咽をこぼしながら拓巳の
マンションを出て少し
歩いた所で、道路脇に
柚木クンが立ってたんだ。
街路樹にもたれるように
して腕を組み、あたしを見てる。
「待てって言ったのに
待たないから、追いかけて
きたんだけど」
目を細めて、責めるような
言葉を投げて。
――それじゃあ何?
あたしを追って店を出て、
タクシーでついて来てた
ってこと?
_「どうしてそんなこと……」
こんな状況と泣き顔を
見られたことに動揺して、
慌てて手の甲で涙を拭う。
そんなことしたって今さら
なのは、重々承知してるけど。
「――逃げられるのは
好きじゃないから」
歌うようにそう言って、
柚木クンはもたれてた
木から身を起こした。
そして一歩、また一歩と
あたしの方へ進みながら、
言葉を続ける。
「オレの言うこと聞かないで
つまんない彼氏の所に行く
とか、許さないし。
でも――邪魔するまでも、
なかったみたいだけどね」
「……………っ!!」
どこまで感づいてるんだろう。
_……なんて、愚問。
とんぼ返りって言っていい
ほどの短時間で、涙を流し
ながら飛び出して来たんだ。
図星でなくても、もうほとんど
正解を導き出してるはず。
「……笑えばいいじゃない」
柚木クンにしてみればいい
気味だろう。
彼に反発して幸せぶってた
あたしは、実は浮気されて
ました。
そう……あたしは柚木クンの
言うとおり、これっぽっちも
幸せなんかじゃなかったの。
「そら見たことかって、笑えば?
いいザマでしょ?」
自暴自棄に叫ぶと、やっと
口から笑い声が漏れる。
よかった、笑えた。
……自分自身を嘲る、嘲笑
だけど。
_柚木クンにも笑われて罵倒
されれば、いっそスッキリ
するかもしれない。
そう思ったのに――こんな
時でさえ、彼は、意地悪だった。
柚木クンはあたしの前に
立つとスッと片手を伸ばし、
まだ乾き切らないあたしの
頬をゆっくりと撫でて、
「別に失恋した女の子を
笑うような趣味はないよ。
てゆーか里中さん、誤解してる」
「誤解……?」
頬に触れる指先に少なからず
ドキドキしながら、かすれる
声で聞き返す。
柚木クンは短く頷いて、
「オレは別に、里中さんが
彼氏に振られればいいとは
一言も言ってないよ。
ただ、自分は幸せだって
思い込むのをやめればって
言っただけ」
_「……同じようなことじゃない」
「どこが。全然違うだろ」
呆れた声で言って――次の
瞬間、彼は頬に触れてた
手を首の後ろに回し、
グイッと引いた。
あたしの顔は、強引に彼の
胸にうずめられる。
起き上がろうにも押さえ
つけるようにしっかりと
固定されてて、無理だった。
「やっ……何すっ――…」
「何って、文字通り胸を
貸してるんだよ。
悲しいなら、もっと泣けばいい」
「やめてよっ。そんなの
いらない……!」
どうして、あなたはそうなの?
さっきまで散々あたしの
心をえぐるようなことを
言ってたくせに、なぜ今に
なって急にそんなことを
言うのよ。
_今のあたしには――優しい
言葉の方が、痛いの。
自分自身に呆れ返ってる
今は、いっそ笑い飛ばして
くれた方が、どんなにか
楽なのに……!
「離してよっ。離してっ……」
一度は止まったはずの涙が、
またあたしの視界を揺らす。
懸命に我慢しようとした
けど、多分効果はほとんど
なかった。
「完全に失えば、何だって
寂しい。
いいじゃん。泣けば」
ホラ――あなたが、
そんなことを言うから。
熱い雫は、再び頬を伝う。
後から後から溢れ出て、
音もなく、柚木クンの
コートにシミを作っていく。
_くぐもった嗚咽を漏らし
ながら、あたしは柚木クンの
胸で泣いた。
気づけば両手も彼のコートを
ギュッと掴み、本当に、
感情のほとばしるまま
泣いていた。
――悲しくて、悔しくて、
馬鹿みたいで。
色んな感情がゴチャ混ぜで
よくわからなくて――もう、
涙と一緒に全部流して
しまいたいと思えてくる。
柚木クンは何も言わず、
ただ本当に“胸を貸して”
くれてた。
だけどやがて、あたしの
後頭部に指を入れ、髪を
すくようにして少しだけ
上を向かせると、
「……やっぱ、ひどい顔」
「……………っ」
_そりゃ、これだけ泣けば
メイクもグシャグシャだし、
目も腫れてしまってるだろう。
予想はつくけど……だから
ってわざわざそんなこと
言わなくてもいいじゃない。
「泣けって言ったの……
柚木ク、でしょっ……」
「あー、別にいいよ、
しゃべんなくて。
てゆーか、もういい」
「………………?」
「それだけ泣けば充分だろ。
拓巳サンとやらには。
――後の涙は、オレが貰う」
(は――――…?)
声にならない声をあげて、
ポカンとした瞬間。
唇に一陣の風のように舞い
降りたキスが、あたしの
呼吸を奪っていった。
_「んんっ………!?」
驚きに硬直するあたしを
強く抱きしめて、性急に
深さを増す激しいキス。
巧みな舌使いに、なす術も
なく翻弄される。
「ぅんっ……ふぁっ……」
拓巳のそれとは全然違う、
荒々しいキスだ。
こんなキスは初めてで、
頭の芯がジンと痺れる
ように熱くなる――…。
「――そんな顔してたら
奪っちゃうけど。
マジでもう逃げ道ないよ、
里中さん?」
キスの合間に、耳元に声が
埋められた。
でももうあたしには、その
意味もよくわからなかった。
……忘れられれば、もう
どうでもいい。
そんなふうに、思ったの
かもしれない。
_だってあたしはもう、拓巳
とは終わったんだから。
これから何が起ころうと、
あたしが拓巳に責められる
ことはないし――ああ違う。
もう、拓巳のことなんて
考えるのはやめよう。
――落ちてしまえばいい、
このまま。
このキスに酔っていれば、
あたしはきっと、これ以上
悲しい涙を流さなくて
いいんだから。
「柚木ク―――…」
あたしを支える腕に、
しっかりと体を預け。
あたしは無意識のうちに、
濡れた声でその名を呼んで
いた――…。
☆☆☆☆☆
_ ☆☆☆☆☆
「っあぁっ……っはっ……
やぁっ……っ」
敏感なそこに触れられる
たびに、抑えられない嬌声が
漏れてしまう。
シャワーを浴びた体は、
元からバスローブ以外の
隠す物を身につけてない。
そして今やそのローブは
取り払われ、ベッドの傍の
床に落ちていた。
あたしはあられもない姿を
ベッドの上に投げ出し、
さっきからひっきりなしに
声をあげている。
あたしの上の柚木クンは
まだバスローブを着てるのに
フェアじゃない気がしてた
けど、そんなことを口にする
余裕はカケラもなかった。
_両の胸の膨らみに、片方は
手で、もう片方は舌で、
繰り返される愛撫。
掌で弧を描くように揉み
しだいては、時折指先で
先端の蕾をキュッとつまみ、
押さえつける。
と同時に反対は、ざらついた
熱い舌で丁寧に先端の周りを
なぞり、たっぷりじらして
から中心を口に含んでは、
コロコロと転がすように
もてあそぶ。
緩急をつけて止まること
なく与えられる快感に、
あたしの体はとうにとろけ、
内から沸き上がる衝動を
抑えようがなくなってた。
胸に刺激が与えられるたび、
その快感は体の奥底へと
走り、もどかしい痺れを
強くする。
……無意識のうちにビクン
ビクンと、腰が跳ねてしまう。
_「……どんだけ感じてんの。
こんな感じやすい体初めて見た」
クスクスと笑い混じりに
囁く声ですら、もうあたしを
惑わす媚薬だった。
あたしは涙に潤んだ瞳で
柚木クンを見上げ、懇願する。
「そんなこと、言わないで……」
「でも実際そうだし。――ほら」
「ぁあんっ……」
キュッとつままれただけで、
驚くほど高い声が喉をついた。
「言ったろ。里中さんの
体は正直なんだって」
サラリと言ってのけた
声とは裏腹に、柚木クンの
手は素早く動く。
あたしの脇腹を撫でる
ようにかすめて腰におり、
足の付け根へ。
そしてそこから両足の
隙間に入り込み、一番
敏感な、その場所へ――…。
_「やぁぁっ……
ダメ、そこはっ……」
柚木クンの細い指がスッと
なぞっただけで、もうそこは
驚くほど甘い蜜で溢れてる
のが、自分でもわかった。
恥ずかしい。でもそれと
同時に、触れられたことで
一気に高まった熱が、
ほてった体をさらに焼く。
「嘘つき」
『ダメ』なんて言ったから
だろうか。
柚木クンはそう言って、
声を奪うようにキスで唇を
ふさいだ。
そして秘部に触れる指を、
明確な意志を持って一気に
進める。
両のヒダを押し開き、甘く
濡れた中心へ指を埋め。
浅く深く出入りしては、
感じるポイントを探すように、
あたしの中を掻き乱す。
_「んんっ、ぅんっ、んふぅっ」
声をあげようにも、唇を
ふさがれていてかなわない。
あたしはくぐもった息を
漏らして体をくねらすのが
精一杯だった。
――キスをされ、触れられ、
感じてる。
今日初めて抱かれる、彼――
ただの後輩だったはずの、
柚木クンに。
「……ね、気持ちいい?」
ふいにキスを解いた柚木
クンが、あたしを覗き込んで
聞いてきた。
あたしは気恥ずかしくて、
思わず目をそらしてしまう。
だけどその途端、彼は
あたしの中に埋めた指を、
角度を変えてグイッと
攻め立てた。
「ひぁっ…ぁっ、ぁっんっ」
_「正直に言わないと、お仕置き。
あのね里中さん、
教えといてあげる。
ベッドの中では、全部
捨てて正直になればいい。
男には、それが一番キクんだよ」
「え………?」
濡れた視界の中で、柚木
クンはそっと目を細めて続けた。
「くだらない意地も、変な
気遣いもいらない。
ただ自分が気持ちよくなる
ことだけ、考えればいいんだ」
(意地も、気遣いも――…)
そう言われて、ふと拓巳の
ことを思い出した。
思えば拓巳とのセックスは、
したがる彼に合わせてる
時があったかもしれない。
もしかしたらそれも、
“変な気遣い”だったのかも。
_「ほら……正直に、言ってよ。
そしたらオレが、もっと
もっと感じさせてやる。
今まで経験したことない
くらいに」
「あっ……柚木ク――!」
ユルユルと出入りしてた
指があたしの中の敏感な
所を探し当て、執拗に
そこを追い立てた。
強すぎる快感に、あたしは
電気を流されたように背中を
しならせる。
「あっぁっ……
き、気持ちぃ…っ」
もう、羞恥心をかなぐり
捨てて、心の赴くまま叫んだ。
柚木クンがそれでいいと
言うならそうなんだろうと、
あたしにも思えたから。
「あっ…んっ……いいよ……っ」
_腰を弾ませ、快感に溺れる。
熱く雫を生み続けるそこに、
柚木クンが自身のたかぶりを
押し当てた。
迫りくる圧迫感にほんの
少し体を強張らせた時、
彼が風のように囁く。
「美咲――…」
(………え………?)
初めて呼ばれた下の名前。
彼の声がこの名を口にする
なんて、何だか不思議で
ドキッとした。
そんなあたしに、柚木クンは
少しだけ唇の端をあげて笑って、
「いつまでも苗字じゃ、
いくらなんでもムード
ないでしょ。
ね……こっちの方が
断然いいよ、美咲」
_そう言ってゆっくりと腰を
沈めてくる、思いのほか
筋肉のついた、たくましい体。
「あ……ぁぁっ、っん……っ」
「美咲は、オレの名前
知ってる?」
「えっ………」
この状況でそんなこと
言われても、答えられ
なければ頭も働かない。
……何だっけ。
一応知ってた気がするけど
呼んだことないし、意識
したこともなかったし……。
――困ってたら、柚木クンは
わりとすんなり諦めて、
答えをくれた。
「瞬也(シュンヤ)だよ。
部下の名前くらい、
ちゃんと覚えといて」
そんなこと言われても
チーム員じゃないのに、
そこまで頭回らない――
なんてことは、反論する
暇もない。
_圧倒的な重量感を持って、
柚木クンがあたしの中に
押し入ってきた。
目も眩むような新しい快感に、
あたしの意識はまたあっと
いう間に霧散してしまう。
「はっ……ぁぁっ……
柚木ク……ッ」
「瞬也だって」
「あんんっ」
声に合わせてズンと突かれて、
それだけであたしはもう
限界を感じかけてた。
「ほら――呼んで。
でないともっといじめるけど」
「あ…んっ。しゅ、瞬也っ……」
「よく出来ました」
結局さらにあおられて、
何がお仕置きで何がご褒美
かもよくわからない。
_だけどもう、どっちでも
よかった。
柚木ク――瞬也のくれる
快感は、本当にひと波ごとに
あたしを溺れさせて、どん
どんおかしくしていってたから。
激しく叩きつけられて、
深く深く、繋がるカラダ。
また新しい波が押し寄せる。
そうしてあたしを、壊していく。
終わりのない嬌声と一緒に、
あたしは何度も、与えられた
新しい呼び名を呼んでいた。
その一声ごとに、彼から
抜け出せなくなるかもしれない。
そんな錯覚を、感じながら。
☆☆☆☆☆
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