別れの曲を君に(短編)
「ずいぶん遅くなったようだけど、どうしたんだい?」
やはり、無理に感情を抑えているような、揺れる声音。
何だろう。
この人、泣きそうなんじゃないかな?
悲しいことでもあったのかな?
そんな気がした。
「あ、今日は図書委員の貸し出し当番で……。いつもは友達が手伝ってくれるんですけど、今日は用事があって、先に帰ってしまって……」
「……そうだったの」
しどろもどろになりながらの綾の説明に、答える男の声には、微かに笑いの微粒子が含まれている。
なんだかよく分からないが、自分の言葉が男の心を少しでも上向きにしたのなら、ちょっと嬉しい。
そう感じる一方、綾の心にふと疑問がわいた。
――この人は、いったい誰なんだろう?