HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ここまで打ってあたしは手を止めた。
思ったままの文章を書き綴ったから、なんだかぐちゃぐちゃだ。
でもこれがあたしの素直な気持ち。
あとで読み返したとき、あとで誰かが読んだとき……
あたしの気持ちを誰かが知ってくれれば―――
手を休めて傍らに置いたココアのマグカップを手にとり、ふと窓の外を眺めてみる。
窓の外には、藍色の絵の具を零したようなきれいな空に、ぽっかりと淡い月が浮かんでいた。
白雪姫は……
森に置いていかれて、一人寂しく木々の間から月を眺めていただろう。
彼女の目に映った月は、どんな風に見えたんだろう。
あたしの目には―――寂しそうで、不穏で―――今にも泣きそうに映ってるよ。
「明日は雨かも…」ぼんやり呟いて、あたしはパソコンに向き合うとメールを下書き箱に入れて、ついでにUSBにバックアップを取った。
これは大事に保管しなきゃ。なんて思っていると
~♪
ケータイが鳴った。
着信:水月
となっていて、あたしは躊躇なく通話ボタンを押した。
離れる、って言ってもあたしの一方的な都合だし、着信まで拒否することは流石にできない。
「もしもし」電話に出ると、
『僕だけど』と柔らかい声が聞こえてきた。
もう一度窓の外から月を眺めると―――さっきよりもその光が強く、光り輝いているように見えた。