HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
結香さんの目は真剣だった。まっすぐに僕を見つめる瞳の底で、ただまっすぐな光が渦巻いている。
「取ったって…」
「“寝取った”。その言葉の通り、あの子あたしの彼氏を色仕掛けで奪ったの」
「え……だって…森本は―――明らかにその……慣れていない感じがしたし…」
僕の車に乗るのだってあんなに緊張した様子を見せていたし。
僕が何とか答えると、それでも結香さんはまっすぐに僕を見据えてきて、
「信じる信じないは先生に任せるよ。
ただ―――あんまりあの子に構うと、痛い目に遭うかもね」
と無表情に言い、すっと立ち上がった。
「モカ。帰るよ」まだ走り足りてないのか、モカはその場をうろうろしている。
「待って!」僕はモカのリードをくくりつけるためにしゃがみ込んでいる結香さんのところまで駆け寄った。
彼女は目だけを上げて、「まだ何か?」と視線が語った。
「いや…あの。今度またゆっくり話したいから。いや!あの変な意味じゃなくて」慌てて手を振ると、結香さんは笑った。
「別に変な意味に捉えないよ。彼女一筋って感じだから」
「え…?僕、彼女がいるって言ったっけ?」
「聞いてない。でもさっき駐車場で楽しそうに電話してるのが聞こえたからさ。彼女でしょ?」
聞かれてたのか……ちょっと顔を熱くさせると、
「それにあたし先生のことタイプじゃないし。あ、顔が、とかじゃなくて。タバコ吸う人嫌いなの」とこれまたストレートな答えが返って来た。
なかなか面白い子だ。
「いいよ。番号教えるから、何かあったら連絡して」結香さんは頬にかかった髪を耳に掛けながら立ち上がり、ポケットからケータイを取り出した。
こうして僕たちの間に奇妙な縁ができた。