HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


「時間切れだ。あたし行かなきゃ」体を起こすと、


「僕も準備しなきゃなぁ」と水月は残念そうに頭を掻いた。


「お互い授業がんばりましょ♪」素早くキスをして立ち上がり、あたしはスカートの皺を伸ばした。


準備室を出る直前ちょっとだけ振り返り、


『愛してる』声に出さずに口だけを動かすと、


『僕も』と彼の口も動いた。


上機嫌で準備室を出ようとしたけれど、人目がないかそれだけは充分確認してあたしは何事もなかったかのように教室に戻った。


――――


水月のキスのお陰で午後の授業は何とか眠気をやり過ごし、あっという間に放課後になった。


今なら白雪姫の気持ちがちょっと分かるよ。王子様のキスで、こんなにも気持ちが変わるもんだね。


でも―――


「雅、あたし委員会が終わるまで教室で待ってるよ」乃亜が心配そうにあたしを見てくる。


「危ないから帰って。あたしは大丈夫。梶に送ってもらうから」


そう言ってちょっと考え直す。


「ね、今日は保健医に送ってもらって。あたしあいつに言っておくから」


昨日の不審者ってのがまた今日現れるかもしれない。


ストーカーじゃなくても、乃亜は可愛いから狙われるかもしれないし。


「…大丈夫だよ。それより雅が心配。久米くんと一緒でしょ?」と乃亜はちょっと顎を引いた。


「あたしは大丈夫。梶も居るし、それに他にも大勢いる」あたしは強引にそう言い置いて保健医にメールをしようとケータイを取り出した。


「今日は明良に迎えに来てもらうから大丈夫。帰るとき言って?明良と迎えにくるよ」


「迎えはいい。なるべく普段通り生活しなきゃ。こっちの動きを悟られるわけにはいかない。変に警戒されたり、何かしでかすかもしれないから」


あたしは早口に答えて梶の元へ向かった。





ストーカーの野郎。



何を考えているか分かんないけど、返り討ちにしてやるんだから。



待ってなさい―――






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