HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「そこが教師と医者って立場の違いなのか、あるいはお前と俺の性格の違いなのか分かんねぇけど、お前のそう何とかしようって考え、俺は嫌いじゃないぜ?」
まこは椅子をくるりと回すと、僕に向き直った。手にさっきのファイルを掲げている。
「ま、そうゆう悩みだったら専門家に聞け?」
にこにこ笑って、僕の胸にそのファイルを押し付けてきた。
「専門家?」
透明のファイルに入っていたのは一枚のパンフレットで、表紙に
『久米メンタルクリニック』と書かれている。
「久米のクリニックが気になるとか言ってたろ?畑違いだが、うちと同じ医師会に登録があったから、割とスムーズに連絡がいったぜ」
「言ったけど…え?わざわざ取り寄せてくれたの…?しかも連絡まで」
僕が聞くと、まこは面倒くさそうに手のひらを振った。
「お前も鬼頭も揃って、久米のことを気にしてちゃこっちも気になるからね」
え―――……雅も………?
何で―――
僕が顔を上げて目を開くと、まこはちょっとだけ目を細めた。
「俺ぁ何も聞いてねぇぞ。あいつが昨日突き指した久米を連れてきたんだ。それで久米の右手を気にしてたからさ」
と言って、慌てて指を口に当てた。
「ってこれ俺が言ったって言うなよ?あいつに何されるか」
「………言わないよ」
メンタルクリニックのパンフレットをじっと眺めていると、
「あいつ、今度は何してんの?」とまこ、が不審そうに眉をひそめた。
「さぁ。僕は何も聞いてないし」
僕の気のない返事にまこ、はメガネのブリッジを直しながら
「お互い秘密を持つのは良くないぜ?まぁ全部が全部あけっぴろげなのもどうかと思うけど」
と、彼らしくない……それでもありがたいアドバイスをくれた。