HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
さっき一瞬考えた楠も、いつもと変わらず机の上に両肘をつき、
「―――楠」
と呼ぶと、「はい」といつもと変わらない明るい返事が聞こえてくる。
名簿の名前を追う視線が“久米”を指したとき―――僕は一瞬だけ言葉を飲み込み、それでも
「久米」
と彼の名を呼び、その机に座った久米を見た。
「はい」
やはり久米もいつもと変わりない。
いつもと変わらず、姿勢良く前を向いて爽やかな返事だった。
―――………
山田を呼び、出席を確認して、またも僕は名簿を追う目をまばたいた。
「森本―――…」
「………はい」
森本が控えめな返事をして、おずおずと手を挙げ僕をちらりと見上げてくる。
彼女と目が合うと、彼女は慌てて俯いた。
僕は何でもないように次の生徒を読み上げ、それでもじっとこちらを見つめる森本の視線に―――…少しだけ戸惑う。
出欠を確認し終えると、僕は本題に入ろうと背を正した。
「もう噂で知ってると思うけど、文化祭の出し物がA組と被ったこと―――ただの偶然だから、A組に何か言われても何も思う必要はない」
生徒たちを見渡して、僕は全員に行き届くよう大きな声ではっきりと言いきった。
教室内が再びさわめき、
梶田はおもしろくなさそうに唇を尖らせ、久米は何かを考えるようにどこか遠くを見ている。
森本は不安げに瞳を揺らし、
雅は―――相変わらず何を考えているのか分からない表情で、じっと僕を見据えていた。
それぞれの実行委員は―――それぞれ思うところがあるようだが、僕は彼らを信じている。
担任が出来ることと言ったらこれぐらいしかない。