HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
カーテンを閉め切る間際、森本がちょっと頭を上げて僕を呼び止めた。
「―――先生……」
僕がカーテンを閉める手を休めて森本を見下ろすと、彼女は眉を寄せて
「―――…すみません…」
蚊の鳴くような頼りない声で小さく謝ってきた。
僕はなるべく不安にさせないよう、彼女に微笑みかけ、
「ありがとう、だよ」
と言うと、森本もはにかんだようにちょっと笑った。
「先生―――…ありがとう…ございます」
うん、それでいいよ。
そう言って頷いて、僕は今度こそカーテンを閉め切った。
カチャン…
注射器をステンレスの医療用バッドに置きながら、まこが
「水月、消エタとってくれ」とそっけなく言った。
「ショウエタ?」
「消毒用エタノールのことだ」なんて言いながら、まこは自分で棚を開いて500ml程の茶色い瓶を取り出す。
「自分でやってよ。僕は君の助手じゃないよ」
なんて唇を尖らせると、まこが僕の腕を突然引いた。
「じゃあ助手は鬼頭に頼もうかな」
「は?」
まこは真剣な目で僕を見上げると、
「うかうかしてっと鬼頭を誰かに取られるぜ?お前もお前だ。変な隙を見せんな」
森本に聞こえないよう、まこは小声で―――それでも表情と同じぐらい真剣身を含ませた声で、
僕にそっと耳打ちしてきた。
意味が分からず目をまばたいていると、
「分かんねぇならそれでいいよ。だけど、森本を迂闊に近づけるな。厄介なことになりそうだ」
まこはまるで森本を敵視するかのようにカーテンの向こう側を睨んでいた。