HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
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「あんたバカじゃないの?」
例のごとくあたしと美術バカは広い美術室で二人。
二階分ほどある高い天井に、中二階の廊下がくっついて真ん中は吹き抜け。
中学の美術室にしては贅沢な作りだった。
古臭い僅かな埃とカビの匂い。それから油絵の具やテレピン油(絵の具の薄め液)なんかの匂いも漂ってくる。
このところ放課後は何故かこいつと美術室に二人で居ることが多かった。
乃亜や明良兄はそれぞれの友達もいるし、家に帰っても一人でやることないし。
かと言ってここで美術バカと何かをするわけでもないけど、あいつがひたすらに美術の話をしてくるのを聞いているのは結構好きだった。
「バカ」
もう一度淡々と言ってやると、美術バカは目をまばたいた。
「何でバカ呼ばわりされるかって?クダラナイことで喧嘩なんかするからだよ」
あたしは美術バカの手を取った。その手には保健室で手当てされたときに貼ってもらったであろう、湿布が張り付いていた。
美術バカは丁度絵の具をパレットに搾り出し、パレットナイフでこねくり回していた。
パレットにはあたしたちがはじめて言葉を交わしたとき、空を彩っていたあの鮮やかなまでの赤色が出来上がっている。
でもこいつは何か物足りないと言って、あれこれ加えて混ぜていた。
美術バカはパレットに出来上がったような色を頬に浮かべて、あたしから慌てて手を離す。
「…く、くだらなくなんてない!」
珍しくちょっと声を強めて美術バカが俯く。
「クダラナイよ。
あんたの手は人を殴る手じゃない。
この手できれいな絵を描くためにあるんだから」