HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
画面に“ゆず”の画像がぱっと映った。
すり替えに成功した。
僕は誰にも気付かれないようほっと息を吐いた。
雅もそして梶田も楠も―――驚いたように目を開いてる。
でも一番驚いているのは、石原先生だった。大きく目を開いて、口元を引き締めている様子を見て、僕は少しだけ彼に勝利感を覚えた。
このUSBを楠に返そうと思った。だけど中身はちゃんと自分のパソコンにバックアップを取って、楠の告白文は削除させてもらった。
さすがに空になったままのUSBを返すのはどうかと思ったから、ゆずの写真を入れておいたんだ。
楠も犬が好きだし、僕のマンションに遊びにくるとゆずを可愛がってくれる。
ゆずはメスなのに、何故か女の子の方が好きみたいで二人によく懐いている。
ゆずを貰って来たのはまこで、お世話をしてるのは僕なのに…
って今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「これは……?」
一緒に画面を覗き込んでいた石原先生が、怪訝そうに眉をしかめ、その表情をどこか悔しそうだった。
「見て分かんねぇのかよ。犬だよ、犬!」と梶田が声を荒げ、
「そうそう!雅のおうちの飼い犬のワンちゃん。可愛いでしょ」
と楠も早口にまくし立てる。
「雅ったら書くことなかったから犬の自慢?」とわざとらしく雅を小突いていた。
「……う、うん…」
当の本人雅も、曖昧に頷いて僕を見上げると、
僕はその視線に、
“何も聞かないで、何も言わないで”
と返した。
雅は石原先生に気付かれないよう、ゆっくりと頷き、再び画面を覗いた。
確認のために画面をスクロールしても、ゆずの写真以外は何もない。
しかも所々、雅がゆずを抱っこしている写真や、ゆずとじゃれあっている写真があったのが功をなした。
間違いようもなく“ゆず”は“雅”の飼い犬って言う信憑性を石原先生に植え付けられたみたいで、
石原先生もまだ疑ってはいそうだったが、とりあえずは信じる他なさそうだった。