HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「紛らわしい。あんな廊下でこそこそするんじゃない」
石原先生は忌々しそうに腕を組み、もう用はないと思ったのか僕たちに背を向ける。
三人はほっとしたように胸を撫で下ろしていた。
だけど、僕はその石原先生の腕を掴んだ。
「待って、待ってください!」
僕の言葉に石原先生が少しだけ面倒くさそうに振り返る。
僕は彼を少しだけ睨むと、
「これで彼女たちが試験問題を盗難したという疑いが晴れましたよね。
彼女たちは何もやっていない。
疑ったことを、彼女たちに謝ってください」
僕が声を低めて言うと、石原先生は一瞬だけ眉を吊り上げた。
「もともと疑わしい行動をとった三人にも責任があると思いますがね」
「はぁ!?誰だってあんな風に詰め寄られたら、びっくりするに決まってんだろ!」
と梶田が勢い込む。
僕は梶田に制止するような意味で手を挙げて、
「梶田は黙っていなさい。確かにそうかもしれない。だけど、それがA組の生徒だったら先生は何も思わなかったでしょう?
彼女たちをはなから疑ったのは、それが彼女たちがD組の生徒だからと、あなたが思ったからじゃないですか」
僕は再び石原先生を見据えた。
石原先生が虚を突かれたように目を開き、唇を引き結んだ。
ついでに言わせてもらうと、あなたが信頼を置いて可愛がっている生徒は、あなたに隠れて喫煙をしている。
しかも常習犯だ。
その言葉が喉から出かかったが、僕はその言葉だけは何とか飲み込んだ。
今は、余計なトラブルを招くわけには行かない。
一刻も早く雅にUSBを渡さなきゃ、と思う反面
僕は、僕の生徒を試験問題盗難と言うありえない事実を、石原先生が疑ったことが
どうしても許せなかった。