HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
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「普通、こうゆことって女子がするもんだよね」
球技場の舞台に腰掛け、糸を通した針を操りながら、久米が迷惑そうに顔をしかめている。
久米のすぐ傍にはさっき家政科から貰ってきた、もう使わないと言う布やレースの端切れがいっぱいつまった紙袋が転がっている。
全部無料(ただ)だからヤッタぁ。
これを組み合わせて新しいドレスにしようってのがあたしの案。
作るのは久米だけどね。
あたし裁縫苦手だもん。
あたしはそのすぐ傍で興味深そうに舞台の天井をきょろきょろ。
普段こうゆうところってまったく用がないから、物珍しいのだ。
球技場はもともとそうなのか、それとも文化祭前で部活動の生徒たちも利用していないのか生徒や教師は誰も居らず
今はこの広い場所に久米と二人きり。
あたしがこの場所を指定した。少し二人きりで話したかったってのあるし。
舞台袖に演劇部が使用しているのだろう、劇の背景セットや小道具なんかが無造作に置いてある。
その中の一つ、壷のような入れ物に入っていたサーベルが目に付いた。
それを取り出して、裁縫中の久米に剣先を向ける。
サーベル、一度振り回してみたかったんだよね。
テレビで古い洋画を見たり、フェンシングの試合を見たりする度に思ってたんだ。
「 To be, or not to be that is the question.
(生きるか死ぬかそれが問題だ)」
それほど大きな声を出していないのに、やっぱりこの球技場は声が響く。
演劇部が重宝する理由が分かった。
「“ハムレット”の名台詞だね」
久米はちょっと手を休めて顔を上げた。
「Whether 'tis nobler in the mind to suffer the slings and arrows of outrageous fortune.
Or to take arms against a sea of troubles,and by opposing end them.
(一体どちらが立派と言えるのか。
残忍な運命の矢玉をじっと耐え抜くのか、それとも海なす苦難をものともせず戦い抜いて、根だやしにするのか)
ハムレットのその先の台詞だ。
君だったら耐え抜く?」
あたしは久米の顎の先にサーベルの先を突きつけ、目を細めた。
「あたしなら
戦い抜く」