HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



あたしと久米が黙ってコーヒーを飲んでいると、静かになったのが気になったのか、ちょっと開いたドアの隙間からネコのオランピアがそっと部屋に入ってきた。


あたしを見るとまだ警戒したように久米の背後に隠れるけれど、


「おいで。この人は怖いおねーさんじゃないよ…」


と、オランピアを手馴れた手付きで抱っこ。


ふわふわの黒いネコは久米の腕の中で、それでも警戒したようにあたしから顔を背けて久米の腕の中に顔を隠す。


オランピアは久米に懐いているようで、久米が指で彼女の背中を撫でるとオランピアは甘い声で鳴き声をあげる。


その姿を見て




「オランピアってさ、モネだっけ、マネだっけ?


どっちだっけ?あのエロい絵」





そう聞くと






「マネだよ。あの“裸婦像”は―――……」






言いかけて久米は口を閉じた。


ネコのオランピアに気を取られてたからか。


あたしの罠に


簡単に掛かった―――


久米は開きかけた口をそのまま、しきりに目をまばたいて額に手をやる。




「『不道徳』なんて不評を買ったけど、それまでの絵画の伝統を打ち壊し、まったく新しい開拓を起こした?



ねぇ、とーや



あんたがそう教えてくれたんだっけ?」






そう、あの裸婦像には別の名前がちゃんとついていた。


それは



“オランピア”




裸の女がベッドに横たわり、その足元には黒いネコ。


オランピアはその女の名前。



言い逃れはできないよ、美術バカ。


ううん




とーや。





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