HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「適当に座って?」
久米はあたしをベッドに促して、自分は床に腰を降ろすと胡坐をかいた。
「熱いから火傷しないようにね」
「子供じゃあるまいし」
あたしはそう言ってカップの一つを取った。白地にピンク色の線が入った何の変哲もないマグカップ。
あたしが注文したカフェオレが入っている。
久米はブルーのカップを手に取り、淹れ立てのコーヒーの湯気の立つカップを口に付ける。
「あたしがあんたのそのコーヒーに何も入れてないと思うの?」
薄く笑って久米を見ると、久米は目を開いてまばたき。
あたしは持ってきた銀色の小さな薬のパッケージを持ってかざした。
「ハルシオン。あんた知ってんでしょ?
これを使って保健医をハメたこと。
飲んだのはコーヒーなのに、何で眠くなるのだろう。そう考えはじめたときはもう遅いよ。
あんたがおねんね中に、何かやらかすかもよ?」
うっすらと笑って久米を見ると、久米は大きな目をまばたき。
けれどあたしの挑発をさらりと受け流して口元に淡い微笑を浮かべると
「君が同じ手を使うとは思えないけどな」
と言ってマグカップに口を付ける。
ごくり、と一飲みして
「うまいよ。鬼頭さんも飲んでみる?
それとも入ってるのはそっちのカップ?交換させようとしても無駄だよ?」
逆に挑発的に言われて、あたしは肩をすくめた。自分のカップのカフェオレを一飲みして
「少し甘いかも。そっちも味見させて?」
久米のカップを半ば強引に奪ってやると、その中身を一飲み。
「苦い。砂糖もミルクもなし?」
あたしが久米にカップを突き返すと、久米はほんの僅かに笑っただけだった。
あたしの脅しも通用しない。
つまんない男。
前はもっと
あたしの一挙一動にいちいち動揺してたのに。
つまんない。