HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
さっきの―――……!
僕は慌てて立ち上がったが、その若い男はすでに店の出入り口の向こう側。
TRRRR…
ふいにテーブルに乗せたままのケータイが鳴って、僕はひったくるようにケータイを取ると
“非通知”の文字を見て、
「もしもし!」と、勢い込んだ。
僕の只ならぬ動作に結ちゃんが目をぱちぱちさせて僕を眺めてくる。
『先生?
さっきの彼女からの伝言受け取ってくれましたか?』
落ち着き払った若い声―――
それは今日聞いた右門 篤史なる男の声だった。
やっぱりさっきの―――……
僕は力が抜けたようにソファ席に身を沈めた。
『可愛い“彼女”ですね。
鬼頭 雅の後釜ですか?』
皮肉るようにそう言われて
「違う!彼女は―――!」
僕はまだ呆然としている結ちゃんを見て、小さく吐息をついた。
「彼女は関係ない。生徒のお姉さんだ」
熱くなったら負けだ。相手は常に僕の一歩も二歩も先を歩いている。
冷静過ぎるほどの思考と、大胆とも言える行動力のある人物。
『すみません、彼女が帰るのを待っては居られなかったんです。
どこでアイツが見てるか分からないから、僕もあまり先生方と接触できないんです』
淡々と説明されて、僕は頷いた。
「アイツってのは―――…」
それでも念のために聞いてみると、
『あなただってよぉく知ってるでしょう?
鬼頭 雅を尾け狙ってるストーカーのヤツですよ』
その言葉に僕は目をまばたいた。
「教えてくれ。その犯―――…」
言いかけて、僕は口を噤んだ。
結ちゃんはどうしていいのか分からないと言う感じでまばたきしながら僕を見下ろしている。
『どのみち僕もこの場に居るのは危険なので、取り引きはまた後日。
それまで先生が誰か一人にでも冬夜の秘密を喋ったなら、
僕はもう一生今回の件で口を割らないので、そのつもりで』