HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


久米の絵が描けなくなった本当の意味を雅知ったら、きっと彼女が傷つく。


そう思っているに違いない。


それこそ変な同情を買うかもしれない。


責任を感じて、雅は僕の手を振りはらい、久米の元に行くかもしれない。いや、今も実際ほとんどそう言う理由……久米の右手に怪我を負わせたと言う部分が大きく影響しているだろう。


久米に『好き』じゃないにしろ、それに近い理由で気持ちが彼に揺らいでいる。そんな気がした。それに相俟って忘れていたきれいな想い出が雅の中をじわじわと浸食するように満ちていってる。


ただ、やはりそれはあくまで『同情』だ。雅ほど『同情』と言う言葉が不似合な女の子はいないと思うが、人間としてやはり責任を感じているんだろう。


でも―――久米はそんな理由で雅と一緒になりたいわけじゃない。


彼女を愛し、彼女を守り、そして彼女の気持ちを丸ごと自分に向けさせたい。つまり変な感情でなく、雅が久米を好きになって欲しい、と言う願いだ。


本当のところはどうか分からないけれど、僕はそう推測する。


あのスケッチブックに描かれた絵から、その感情が溢れていた。


「俺、ストーカー事件が解決したら、鬼頭さんに改めて言うよ。


俺の気持ちを伝える。ただ、そのときに余計な事情を持ち込みたくない。余計な感情を彼女に持ってほしくない」


やはり、そうか―――


「事件が解決したら、俺、先生と決闘しなきゃならないかも」久米はわざと茶化すように明るく笑った。


「それこそ卑怯な手を使うんじゃなくて、真正面から―――


鬼頭さんを先生からさらっていく」





覚悟しておいて





久米は最後にそう言い置いて、ふいと僕から顏を逸らすと、今度こそ視聴覚室を出て行った。



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